2
冷たく整った顔は、肌がいつにも増して白く透き通っている。
……今にも死んでしまいそうに思えるほど、血の気が引いてるように見えた。
反応が鈍い。
蒼自身、どうして自分がここにいるのかわかっていないのか、彼は考えるように瞼を伏せ、少し首を傾げた。
その間にも冷たい水が肌を刺すように重く、身体に打ち付けてくる。
最早、巨大な氷を空の上から投げつけられているように感じるのに。
彼はまるで感情を置き忘れた人形のように、表情を全く浮かべようとしなかった。
「とりあえず、中に入ろう…?」
状況は把握できないけど、蒼をこんなところに放っておくことなんてできないし、すでに冷たくなっている腕を掴んで、部屋に入ろうと促す。
彼は相変わらず生気のない顔のまま、酷くゆっくりした動作で頷いた。
バンッ。
「…(重…っ)」
蒼を家の中に入れて、強風のせいでいつもより重い扉を音を立てて閉める。
厚い板を一つ挟んだことで、外の音が小さくなった。
多少はドアを叩く雨の音が聞こえるけど、大分遠ざかったように思う。
とりあえず蒼を避難させることができて、ほっと息を吐く。
(あのままだったら、絶対に風邪引くところだった…)
タオル持ってくるべきか、お風呂に入ってもらうべきかと悩む。
少し悩んだのち、なんとなく気まずいような静寂を入浴をすすめることで打ち破ろうと振り返った。
…いや、振り返ろうとして。
後ろから身体に回された腕にそれを阻まれた。
「…、あ、…あおい、…?」
「…っ、」
「…(震えてる…)」
密着した背中越しに伝わってくる体温と震え。
振り向こうとした瞬間、後ろから抱きしめられた。
静かな空間で首元に顔を埋めている蒼の、微かに乱れた呼吸だけが耳に届く。
肩にかかる蒼の綺麗な黒色の髪から滴り落ちる水が、おれの服を、床を濡らしていく。
目に映る、自分の家の玄関が一瞬別の場所のように思えた。
「…(え、えーっと、)」
困惑で思考が停滞する。
何故こんな状況になっているのかと困惑して目を瞬く。
身動きが取れない。
濡れた身体がおれのパジャマを濡らしている。
背中が、蒼の髪から垂れてくる雫がうなじに垂れてきて、異様に冷たい。
いや、もう充分おれもさっき出た瞬間にこれでもかってほど濡れたんだけど。
考えていた以上に、やっぱり肌に触れる蒼の身体は生きているのかと疑いそうになるほど、氷のように冷たかった。
[back][TOP]栞を挟む