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でも、「なにかあったのか」なんて聞いて…もし蒼に嫌な思いをさせてしまったらと色々考えた結果、口から出てきた言葉はそんなものだった。


「……」


相変わらず、おれの問いに答える声はない。

おれも蒼の好きにさせようと思って、抵抗をやめてしばらくされるがままになっていると、段々頭の中が落ち着いてきた。


「…(やっぱり、)」


身体に回されている腕にそっと触れてみて、自然と眉が寄る。
こんなに身体も冷えていて。
それに、頭から大量の水を被ったかのように全身びちゃびちゃに濡れている。

……少なくとも1時間は外にいたんじゃないだろうか。

どうしてもっと早く気付けなかったのかと悔やんだ。
早く起き上がって、外を観察するとか早めにしておけばよかった。

そうしたら、こんなに蒼が身体を冷やすことなんかなかったかもしれないのに。

大雨の中、外で見た光景を思い出す。

(……そういう、表情じゃなかったのに)

整った容姿も加味して、普段から『そうしないといけないようにされた』みたいに、表に出している表情があまりにも誰かが求めた理想そのままに感じて気になっていた。

感情すべてを押し殺しているような表情も何かを隠している気がして、思い出して胸が苦しくなる。

雨に降られながら、一人で佇んでいた蒼の顔には感情というものは全く感じられなかったのに。

……どうしてだろう。

濡れた髪から頬に雫が伝う姿は、まるで彼が泣いているように見えた。


「………」

「…………」


そのまま、どのぐらいその体勢でいたのか覚えてない。

永遠の時間に感じるほどずっと、肩にかかる蒼の吐息と、外で降る雨の音だけを聞いていた。

もうどうにでもなれと、蒼に抱きしめられたままじっとしていたら……夜中ということもあって、さすがに眠くなってくる。

夢と現実の狭間を彷徨って、こくこくと船を漕いでいた時だった。


「…まーくん」

「…ん…?」


あぶない、本気で寝るところだった。

自分でも驚くくらいこの状況に慣れてしまった。
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