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長い睫毛が、その目元に幽かな影を落とす。


「…だって、」


その形の整った唇が音を作るのを見た、

…直後


「っ、」


首を鷲掴みにされ、身体を後ろに押された。
玄関扉に背中がドン、とぶつかる。
そのせいで肩にかけていた鞄が床におちた。


カラン、と何か金属音が固いものにぶつかる音がする。

……首元を掴んでいる手。
けれど、決して締め上げられている訳じゃないのに、少しの圧迫だけで息が詰まった。

ついでに、拒否をする間もなくおりてきた手に指を絡められ、恋人繋ぎをさせられた。

扉に押し付けられたまま、絡めさせられた指に更に力が込められ、小さく呻く。

すると
痛みに顔を歪ませ、驚いて目を見開く俺の反応を見て、満足そうに頬を緩めた。



「俺は、大好きな君のことを助けに来ただけなんだから」

「…っ、?どう、いう…」


…熱を帯びた瞳で
そんな、不幸な乙女を助けに来た王子様みたいな台詞を囁かれる。


「愛してる」


そして、熱い吐息とともに無理矢理重ねられた唇に、……至近距離で瞼を閉じている整った顔に、硬直した。


(……なんで、キス……)


「…ん、」

「…は…っ、?」


…くちゅ、と差し込まれた舌によって何かを強引に流し込まれる。

口の中で広がる、さらりとしたその液体は

…やけに覚えのある、苦い鉄の味がした。


―――――――――


愛してる。

そう呟いた男の後ろに見えるのは、血まみれになった  と   の姿で


(…愛?)

(この男が、俺を…?)
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