3

いつもより大きく重く感じる携帯を耳に当てる。
上着の袖がぶかぶかすぎるせいで邪魔なのでせっせと捲る。


「はい」


”まーくん…?”


「うん。おれだけど、……あおい?」


”今おきた?”


「ううん。さっきおきた。なんかへんなことになってて、すごくこまってる……」


”ほんと?背が縮んだりしてる?”


「…?う、うん。あさ、おきたらせがちぢんでた…」


(…なんでそんなに嬉しそうなんだろう…)

しかも俺に起こってることをすんなりと超能力者のように言い当てた。

それに、今確実に声の調子があがった気がする。
何故か悲哀や驚愕というより、歓喜の声に聞こえる蒼の声に首を傾げながら戸惑いつつ返答を返す。


”家の前にいるから今すぐ降りてきてもらっていい?”


もう来てるのか。


…と驚くけど、いつも蒼は俺が家から出る時、絶対に先に待っててくれてるから本当は何時あたりから迎えに来てくれてるのかわからない。


前聞いたときは、楽しそうに散々俺をからかった後さりげなく話題を逸らされて結局教えてくれなかった。

今すぐ、という言葉をやけに強調するからなんでだろうと首を傾げる。

でも今まだパジャマ姿で髪もぼさぼさで身なりを整えてからでないと、と言いかけたら、もう一度強めに「まーくん、……お願い」と根押しされた。

絶対に着替えないでそのままで来て、と何故かそう口にする口調の強さに押されるように、「う、うん」とコクンと頷いて今度はちゃんとズボンの裾をまくってから玄関に走る。


(…た、高い…)


サンダルを履いて、う、と怯んだ。


玄関の扉のドアノブが高すぎる。
手を伸ばしてやっと届く位置だ。
ふんっと意気込みながらドアノブを握って、ガチャリと開いた。


太陽の光が眩しい。
少し目を細めて、その姿を見て挨拶しようとしかけた言葉が途中で止まる。



「あおい、おはよ…う?」


「……っ……まー、くん……」




挨拶をすれば、俺を見た瞬間



………彼は硬直した。



何か衝撃なものをみたというような表情で、固まってしまった。

数秒見つめ合った後、ブルブル震え始めた蒼に、



(……う、なんか嫌な予感が……)


寒気に後押しされるように後ずさりしようとして。

でも目を瞬く間もなく風が吹いてくる。
視界が一面、全部白いワイシャツの色になった。
胸に押し付けるように、脇下から背に回った腕に力が込められる。



「嗚呼……っ!!!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い……!!!」

「…っ、う…っくる…し…」



ちょっとそれは興奮しすぎじゃないかといいたい。


(…ぐ、…つ、潰される…っ)


これ以上ないほど興奮した様子で、嬉しそうに頬を染めた蒼に抱き上げられて、ぎゅううっと抱き締められる。蒼の甘い香りでいっぱいになった。


小学生相手にこんなに強い抱擁は無茶だ。呼吸が止まって死ぬ。圧迫死する。
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