8

その余裕な表情に、ぐ、と唇を噛む。

…俺がとれないのわかってるくせに、なんでそんなことするんだ。

自分の身長よりはるか高い位置にある紙袋を見上げた。

じわじわと情けなさに目が熱くなって、涙が滲んでくる。
小さくなっているからか、感情の起伏も激しい気がする。
それに気づいた蒼が、あ、と声を上げて焦った表情を浮かべた。


「まーくん、ごめ…」

「……おれ、とれないのに。とどかないのに。あおいだって、わかってるのに…」


ぎゅっと小さく拳を握る。
涙を浮かべたまま、本気で困った顔をする蒼を睨みあげた。


「…あおいのばか…いじわる…」

「…っ、」

「…ばか…っばかぁ…っ、おれが、とどくわけないだろ…っ」


うわああんと泣き出して、怒っているのに、なぜか怒られた本人は全然反省している様子を見せない。
ばかばかと罵りながらその身体を叩いても反省どころか口元を手で押さえて耳を真っ赤にしている。


「ちっちゃいまーくん…破壊力はんぱない…やっぱり…すごい可愛い…怒ってるのに全然怖くない…むしろ可愛い…」


なんて小さく震える声で呟かれた最後の失礼な台詞に、「う…ひどい…ひどい…っ」と泣きながら虚しさしかわかない。

おれのこと馬鹿にする蒼なんか、蒼なんか、。
嫌いといえたらいいのに、どうしても嫌いだなんて心の中でも言えない。

でも、こうやって全力でたたいても、蒼が痛そうな表情一つも浮かべてないということが一番悲しい。

ぐじぐじと涙を拭いながら見上げる。


「ひっく…っ、そのふく、おれにくれないの…っ?」

「…ごめん。まーくんにあげたくて持ってきたから、これはまーくんのものだよ」


「意地悪してごめんな」と優しい声で囁いて、怒ってわんわん泣いている俺を今度は力を加減してそっと抱きしめた。

そして何十分かしてようやく泣き止んだ俺は、用意してくれた服を着させてもらうのであった。

茶色の猫耳フードに、お尻の方からはしっぽまで生えている服。

猫をモチーフにしたパーカーを着て不満げな表情を浮かべる俺を、蒼がこれ以上ないほど堪能しまくったのはいうまでもない。


「まーくん可愛いまーくん可愛い…」

「う、うう…なんか…やだ…」


元の姿に戻りたい…。

被った猫耳フードの耳をクイクイ引っ張られる。
肉球のついた手袋までつけられて、これから散々俺で遊びつくすだろう蒼の笑顔に泣きたくなった。


――――続く(これから気分転換に更新する予定)


以前アンケートに参加してくださった方、ありがとうございました。
また気分転換に書いてみようと思います。
prev 


[back][TOP]栞を挟む