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『真白はほわーっとしすぎだ。抜けすぎ。何も考えてないだろ』と数日にも関わらず何度も言われた。
オレとしては記憶がないからそういわれるんだと思っていたけど、記憶がなくなる前も結構手がかかるような人間だったらしい。
「呆れるくらいお人好しで天然な性格をしてるくせに、余計なことにはすぐ気が付く」という、なんというか、酷く面倒な男だったと話していた。
そんな真白に何がわかる、試験官としてその答え次第によってはただでは済まさないが、一旦見定めてやろうとでも言いたげだった。
数日間しかまだ会ってない間柄だとしても、これだけ話していればわかることはある。
「見た目が格好いいのと同じぐらい、内面も可愛いところがあるってこと」
「…………は?」
予想外、な返答だったらしい。
零れ落ちた声に構わず、続ける。
「落ち着いて冷たく見える容姿と対照的に、意外と結構拗ねるし焦る」
以前の関係性が影響しているのかもしれないけど、麻由里さんが来る前と帰った後の彼の機嫌の落差はすごかった。
彼は、ああいうことをした女性に対して『友達』ではなく、もっと別の対応を求めていたようだった。
……オレがその発言をした瞬間に一瞬で空気が凍り付いたのがわかった。
言葉には出さないのに、わかりやすく表情が冷め、機嫌が悪くなった。
それでも、オレのことを心配してくれているのだと伝わってくるから、やはり彼は優しい人だと思う。
「それに、褒め言葉に慣れてない…、じゃないな。褒められることに弱い、って感じがする」
「もういい。うるさい」
先ほどの余裕じみた表情は影を潜め、悔しそうに眉根を寄せ、ふいとそっぽを向く顔。
思った回答が得られなかったらしく、不貞腐れた感情が声に滲んでいた。
……自覚していたのか、今も耳が少し赤い。
なのに、それを隠したいのか頬杖をついて「別に何とも思ってなかった」と小さく反論していた。
ほら、こういう素直じゃない反応をする。
「そうやって図星を突かれて恥ずかしくなるとちょっと口調が荒くなるところも、可愛いと思う」
「だから、いいって言ってるだろ」
「……ごめん。わかったふりで、全然わかってないかもしれないとは思うんだけど……でも、全部、初めて会った日には知らなかったことだから、…嬉しかった」
あと、いつもオレが思いつめすぎないように気にしてくれている。
今さっきの頬を引っ張ったのだって、オレが調子にのったことを言ってしまったかもしれないと思って、落ち込んだ顔をしていたからだ。
珍しく慌てた様子でオレに返す言葉を考えてくれていたし、そういうの全部が嬉しくて笑っちゃったけど、
その時に浮かんだ彼の安堵した表情に、……いつも気遣われていたのだと実感した。
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