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合計で言えば数時間。
それだけの短い時間を一緒にいるだけなのに、好きなところがたくさんある。
「慣れてきたな」
「……へ?」
微かに目を細めた彼が零した言葉に、首をかしげる。
「最初の頃の方が、何にも話さない、感情がない人形みたいで可愛げがあったのに」
「……なんだよ、それ」
「今みたいに俺の言葉に反抗的に言い返すことも、たった数日しか会ってない人間のことをわかったように言うこともなかった」
当初を思い出す。
今よりぼーっとしていた。
……どちらかというと、感情自体があまりうまく湧いてこなかったって表現する方が正しいのかもしれない。
「あのままなら、甘言に騙されてすぐに攫えそうなお姫様みたいで扱いやすそうだったのにな」
「………」
今の自分は彼が期待していたものとは違うと言われているような気がして、沈む。
当たり前のことだけど、以前のオレを知っているなら、猶更に違うことに気づいてしまうだろう。
「……ふーん」
「…………何、」
予想以上に、喉から出た声が、震えていた。
ここまで露骨に声に出す気はなかった。
もっと冗談っぽく、ごめん、と笑って。
その後に、何か気の利いた言葉でも加える、何か、そんな良い返事ができればいいのに。
……それ以上に、別の感情がこびりつくように胸を占めている。
「……そっちのオレの方が、良かったって言いたいのか」
顔を上げることができない。
傷ついているのがありありと滲み出てしまった声音で口から出してしまった。
数秒の沈黙が病室を満たし、「あー」と言葉にならない声が返ってくる。
視線を向ければ、彼がオレを見て、……僅かに罪悪感に囚われたように目を伏せた。
「冗談だよ。悪かった」と機嫌を取ろうとしているのか普段より柔らかい表情で頭を撫でてくる。
「いつも俺ばっかり翻弄されてて悔しかったから、たまにはやり返したくなっただけだ」
(…オレの方が驚かされていることばっかりだと思うけど…)
癖なのか、よしよしと撫でられることが多い。
まぁ、嫌じゃないけど、もしかしたら前の自分にもしていたのかなと思うと…色々複雑な心境に陥る。
「怒った?」
「…………うん。ちょっと」
悩んだ挙句、本音を伝える。
まぁ実際怒っているかは怪しい…むしろ落ち込んだ方が当たってる気はするけどこの際良いや。
「どうしたら許してくれる?」
オレがいるベッドの端に腰をおろし、機嫌を窺うような仕草で頬に触れてくる。
いつもより近くで彼の整った顔を見ることになり、わざとなのか至近距離で見つめ合うような体勢にごくりと唾を飲んだ。
それに
(表現が間違っているかもしれないけど、……なんだか……雰囲気が、甘い…、ような、)
加えてまさか彼がオレに許しを請うための方法を聞いてくるとは思わず、逡巡する。
「……、ぁ、…じゃあ、名前を教えてくれるなら、許しても、いい」
視線を逸らしつつ、なんだか喧嘩したカップルみたいな会話してるなぁと、最近読んだ本の一部分を想起した。
あの本の結末って結局どうなったっけ、と思い出そうとして、
「風呂で気づかなかった?」
「え?」
突拍子もない問いかけに、無理やり思考が呼び戻される。
「身体洗うときに、なかった?」
「……え、と…、」
何の話だと、戸惑う。
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