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「だって、突然別れて会わないっていうのも…何か変かなって。浮気って言っても、オレは全然覚えてないし…」
「覚えてなくても本人が認めてただろ。それに、浮気した女に優しくしたって余計に付け上がるだけだと思うけど」
何がごめんだよ。悪くないのに謝るな。ばか。ばか、と続けて文句を吐き捨てるように零しながらオレに怒っている。
麻由里さんがいた時とは全然違う、感情に伴って人間らしく変化する態度。
外見の異常な綺麗さも相まって、先程は意図的に感情を抑えていたのか…無表情の時の彼は、冷たくて、美しくて…人間味がなかった。
非の打ちどころがない人形みたいで、…色んな意味で少しドキドキしていた。
けど、今こうして子どもっぽく感情を吐露して拗ねながら毒を吐いている感じは、彼が少しくらいはオレに気を許してくれているのかなって気がして、結構可愛く思える。
「でも、まさか貴方と浮気してたとは思わなかった」
「…何だよ」
驚き半分、納得半分で見つめれば、「俺だって望んで迫られたわけじゃない」と居心地悪そうな顔をする。
…まぁ、響さんは男のオレから見ても美形だし、わからなくはない。むしろわかる気しかしない。
けど…記憶はなくても、やはりちょっと複雑な気分にはなるもので、
「響さんは、麻由里さんと仲が良かった?」
麻由里さんが出て行ってから、すぐに教えてもらった彼の名前の漢字。
こうして前に繋がる情報を知れるのは素直に嬉しい。
彼女と別れたのも、そうすれば以前のオレのことを色々教えてくれるってこの人が言ったからで…彼女をあれだけ泣かせた理由が、本当は浮気じゃなくて、…自分のためだって知ったらきっと彼女はオレを軽蔑するだろう。
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