彼の愛籠

***


こそっと、様子を盗み見る。


「…っ、う、」


と、ぱちっと目があって、…瞬間、氷点下を一気に下るような視線が投げられた。


「…あの、オレ、何かしましたか…?」

「自覚ないんだ。へぇ、流石天然ジゴロはレベルが違う」


パイプ椅子に座り、優雅に長い足を組んだまま不機嫌そうに顔を背けられる
しかも嫌味っぽく言われた。それになんだか、怒っている。…というか拗ねている。


「貴方の言った通り、彼女と別れました」


従ったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだと困惑する。


「…頭撫でたり、友達になりましょうとか言ってたけどな」


機嫌が良くなるどころか、皮肉な口調で非難されて、それの何が悪かったのかとたじたじになった。

「それより敬語やめろ。嫌だ。ぞわぞわする」と、続けてじとっと睨みつけられて、曖昧に笑う。

あの後、体中の水分を吐き出しきる勢いで泣く彼女に、

”悪いのは麻由里さんじゃなくて、オレなんだよ。だから、責めるのはオレにして”
って、できるだけ優しく声をかけながら、困ってよしよしと頭を撫でてていた。

結局どうしようか考えて、彼女としては接することができないけど、友達になれませんかという話をした。
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