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頬に手が触れて、反射的に体が強張り、避けようとしてしまった。
その反応に傷ついたような表情を浮かべたのがわかって、すぐに後悔する。
「え、あ、あの、ちょ…っ、」
しまったと思って、抵抗をやめて、少し、慌てる。
泣きそうな顔をした彼が、…縋るように首に顔をうずめてきた。
「頼むから、嘘だって言って…」
「…っ、」
余程、以前のオレと仲が良かったのだろうか。
とても愛おしげに、壊れ物のように扱われる。
…こうしていると、…確かに、彼女らが話題にするのもわかる気がした。
サラサラそうな明るい黒色の髪と、特に女性に好まれそうな整った顔立ち。
少し伸びた前髪から覗く…一見冷たい雰囲気を醸し出している切れ長の瞳は、思わず見惚れてしまうほど美しくて、小さく息を呑んだ。
もし女だったら、この状況を少しくらいは喜べたのかもしれない。
けど、だからこそ更に生じる罪悪感に耐えきれず、視線を下げる。
「………」
「っ、」
今までも何度もしたやりとり。
何度聞かれても、冗談ですよあはは、なんて返せるはずがなくて、俯くだけで何も答えなかった。
「…っ、本当に、俺とのことも、全部、覚えて、な…」
泣きそうな顔が、更にくしゃって歪んで…その直後、
ガタン、と彼が立ち上がった衝撃で、座っていたパイプ椅子が倒れて音を鳴らした。
「…ぁ、あの、待って、」
倒れたソレを気にもせずドアの方に歩いていく彼に、とっさに声をかける。
けど、自分でもなぜ声をかけたのかわからないのに、何か言えるはずもなくて。
続きを言いかけた音が尻すぼみに小さくなる。
…口ごもるオレに、少し立ち止まって、…結局何も言葉を発しないまま部屋を出て行ってしまった。
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