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「…え、」


唐突な問いかけに、目を瞬く。
なんで今それを聞かれるんだと頭のなかが一瞬制止した。


「前教えてやっただろうが。恋人ってのは、家族とは違う、他人同士で本気の本気で愛し合ってる奴らのことだよ」

「…うん」


知ってはいる。知識としてはある。

けど、それについて何度も聞いても、実際にはどういうものかは今でもよくわからなかった。

両方ともどっちのほうが大切かって決められないくらいすっごく大事なもので、

だけど、他の人といるのをみて苦しくなるのは恋人の方だって聞いた。


「恋人について知らないだけならまだしも、他の基本的なことも教えられてなかったもんな。お前」と続ける正孝に、そう、かな…と呟くとそうだろ、と力強い言葉で被せられる。


(…でも、確かに、)


「…正孝の言う通り、さっくんは家族で、恋人じゃないのに…なんで、オレ、」


…こんな気持ちになるんだろう。

もやもや、みたいな、ざわざわ、みたいな、よくわからない嫌な気持ちで胃から何かが込みあがってきそうだ。


「………ぅ、」


心臓が、ドキドキして気持ち悪い。
気を抜けば、今にも吐きそうだった。


「………(ああ、もう…いやだな)」


こんなの、こんな気持ち悪いの、いやだ。知りたくない。早く消えてほしい。

…あんな感覚、二度と思い出したくない。


桃井を大事そうに抱きかかえて、オレを一瞬たりとも見ようともしないで去ろうとするさっくんに、…行かないで欲しいと思ってしまった。

いつもみたいに、オレを一番に優先して、オレだけを特別扱いしてほしいと…思ってしまった。


『香織、』


桃井の名前を呼ぶ、…さっくんの…優しい 声が、


「…っ、ぃ、」


痛い、意味がわからないくらい痛い。

冷えた心臓が、ばくばくする。

すぐそばにいたのに。

あんなに、近くにいたのに。


…確かに、約束した。

普通の先生と生徒の関係になるって言った。

けど、けどさ、


(…こんなに、こんな簡単に、…”そう”なれるものなのか)


一瞬でオレを『ただの生徒』にして、
桃井を『大切な人』にして、

オレを捨てて、
桃井を大事に守って、


…桃井だけを、さっくんの世界にして、


「……そうか。簡単なことなのか」


絞り出すようにぽつりと呟くと、本当にそうなんだと思えてきた。

今まで当然みたいに一緒にいたけど、それは絶対に明日もってわけじゃない。


今日桃井の執事をしてるさっくんが、明日になればまたいつもみたいに優しくしてくれるとか、一緒にいてくれるなんて保証はどこにもない。


さっくんがオレだけの執事でいる理由なんか、何もない。


…だって、


桃井に向けていたあの眼差しを見たじゃないか。


「……はは、」


軽い失望にも似た感情に、小さく笑みを浮かべる。


(ほんと、…わがままな子どもみたいだ)


…さっくんはちゃんとできてるのに

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