12



……で、結局他の人に見られてはいけないからってよくわからない理由で空き教室の前に連れていかれた。


「ここで待ってて」

「……わかった」


何故か扉の外にいるように言われて、眉根が寄る。


(…ただ呼ぶだけなのに、私抜きで先に会いたいってこと?何?自分だけは特別ってわけ)


ふざけんな。
ありえないでしょ。何それ。

思い通りにさせてたまるかと苛々しながら扉に手をかけ、少しだけ開けてこっそり隙間から覗き込んだ。


…すると、


(――え、?)


視界に入って来た光景に、息を呑む。
…まだ夢を見ているのかと目を見開く。



「…夏空様。何か御用でしょうか」



――咲人が、いる。


…さらりとした艶のある黒髪を揺らし、軽く伏せられているその目元には長く黒い睫毛が微かに影を落として、整った薄い唇から優しい声を零す。

それに、朝日のせいか…ほんの微かに光に似たキラキラしたものがその身体を包んでいた。

『雨宮先生』の時みたいに白衣じゃない。『咲人様』の時の、スーツ姿で。

どうして、一体いつここに、なんてそんな疑問はすぐに別の思考へと変わる。


「……ッ、」


(…――ああ、やっぱり、…美しいなんて言葉じゃ足りない…)


ゾクリと身震いした。

思わず息を止めてしまうほど、
目に映したその一瞬で、全ての感覚を奪われる。


「咲人、」


話しかけようとして、…すぐにそれは届かないことを思い知らされた。


「…っ、来て、くれたのか」

「はい。貴方が呼んで下さるなら、いつでもどこへでも喜んで参ります」


他の声に反応して、いつも通りスーツ姿の彼は優しさが滲んでいる表情で酷く嬉しそうに、これ以上ないほど幸せそうに頬を綻ばせる。

…けど、普段より辛そうで、苦しそうな、そんな感じの微笑みだった。


「…夏空様……?」


ずっと欲していた、…求めていた人。

…なのに


(…なんでよ)
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