27
「つづき?」
何のこと?と首を傾げる。
と、机に腰かけた体勢のままのオレを、何故か怖いくらい真面目な顔をした正孝がじっと見つめていた。
「…まさ、たか、」
「恋人ってどんなのか教えてって言ってただろ?」
覚えのある言葉と同時に、机の上の手に上から重ねられ、びくりと震える。
そのせいで、すぐ後ろの机に脚が当たって、ガタ、と音が鳴った。
…二日前くらいに確か、そんなことを聞いたような気がする。
正確に言えば、『漫画だけじゃ良くわからないから、恋人って実際にどんなことするのか教えてくれ』みたいなことを言った。
正孝が見せてくれる漫画は、基本的に恋人になるまでの過程しかなかった。
好きになって、告白して、付き合う。
けど、その後はほとんどどんなことをするのかわからないまま、漫画が完結してしまう。
さっくんに聞いても、それはまだオレには早いってそればっかりだったから、正孝に聞いたんだけ、ど、
…手の甲に感じる、正孝の汗ばんだ掌の感触。
「…っ、い、いきなりなんだよ。怖いだろ」
いつもどちらかというと冗談っぽく笑っているイメージしかない正孝が真剣な表情になると、凄く怖い。
自然と退路を探しても、すぐ後ろに机があるから、どこにも逃げられる気はしなかった。
「…お前が知りたいこと、…今、教えてやろっか」
「え、」
顔が、近づく。
オレの手を握る、正孝の手が、更に熱くなって、汗が滲んでいるような気がした。
…なんだか、さっくんとキスする時みたいな体勢と、緊張感のある雰囲気に、思考がついていかない。
驚いて、身体が固まった。
「動くなよ」
「…で、でも、」
流石に、近すぎないか。
というか、何故教えてくれるのにこんなに近づく必要があるんだ。
鼻同士がくっつきそうなくらい近くて、正孝の顔の毛穴まで見えそうだし、しかも息が、唇にかか、
「お前が知りたいって言ったんだろ?わかったら、動くな」
「……う、ん…」
声だけで、返事をする。
…既に、息が触れている。
段々、もう唇も重なるんじゃないかってくらい近くて、ああ、正孝ってこんな顔もするんだ、ってぼんやり考えた。
「……、」
…まぁいいか、て思考を放棄して受け入れていれば、
−−−ふにゃ、
「…へ、」
(…やわらかい、…?)
自然と閉じていた瞼を持ち上げると、
……視界が一面真っ白な毛でおおわれていた。
「…っ、いででで…!!クッソ、またてめぇか!しかもちんこを俺の顔に押し付けてくんなきめぇ!」
いつの間にか戻ってきていたらしいにゃんこが正孝を滅茶苦茶に引っかき始めていた。
「にゃんこ、」あまりにもいつも通りなその姿に泣きたくなってきて無理矢理剥がす。
正孝には先に教室に戻るように言って、にゃんこを抱っこしたまま外に出た。
庭にゆっくり置くと、きょとんとしてこっちを見上げてくるつぶらな瞳に、笑いかける。
「…にゃんこも一緒にいなくていいんだぞ。さっくんはもう、オレの執事じゃないんだから」
…なのに、前のさっくんの命令を忠実に守り通してるにゃんこは偉いな。格好いいな。
オレも負けてられない。頑張らないとだめだ。
「一緒にいてくれて、ありがと」とお礼をかねてぎゅっとしながらよしよししながら撫でている
と、
「…っ、ぃ゛…っ、?!」
いきなり、にゃんこががぶりと人差し指を噛んできた。
骨にまで到達しそうな勢いで噛まれ、痛みに振りほどこうとした瞬間、パッと離れる。
「…ぅ゛、ぁ、…な…っ、」
噛まれた場所から血が滲んできた。
びりびりして、呻く。
「……な、なんで…っ、にゃん、」
にゃんこまでオレを嫌いになったのか、と泣きそうになりながら呼びかけようとした声は届かない。
…いつの間にか、猫は目の前から消えていた。
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