保健室とさっくんと秘密の行為

***

にゃんこに噛まれてから、寒気とふらふらがとまらない。頭がやけにぼうっとして、汗が滲む。

熱い。怠い。息が、苦しい。

あまりにも辛かったから、後の授業は休んだ。


(…本当は、来たくなかった、けど、)


…どんよりと重い気持ちで気が進まないまま、足を止め、保健室の表札を見上げる。

ドアのガラスの部分から、こっそりと中を盗み見た。


「……ぁ、」


(…さっくん、だ)


机の前の、椅子に座っている。

優雅に長い足を組み、綺麗な横顔を俯かせて難しそうな本を読んでいた。


「……」


(…どう、しよう)


今更ながら、入るのを躊躇う。

保健の先生は大抵2人いるから、できれば他の先生がいいなって思ってたけど、


…今はこの部屋の中で白衣を着ている人は一人しかいない。


…と、

不意に、さっくんが気怠そうな表情でこっちに視線を向けた。

目が合う。


「…っ、や、ば…」


何も悪いことなんかしてないのに、逃げたくなった。
けど、熱のせいか震える足が竦んで、動けない。

そうしている間に、

ガラリと扉が開く音が して、


「どうぞ。入ってください」

「…え、」


微笑みを浮かべ、けど何故か無表情にも見える表情でオレを見下ろすさっくんに、ぎょっとする。


「具合、悪いんでしょう?」

「…っ、」


(なんで、)

オレが体調悪いってわかったんだ、と気になりつつも、素直に頷く。


「…さっき、ちょっとにゃんこに噛まれてから、なんか凄く気持ち悪く、て…」


……ちらっと中を見ると、いるだろうと思っていた桃井の姿はなかった。

(…教室に戻ったのか?)

ついさっきまで、正孝と授業をさぼって話をしていたから、その可能性もないとはいえない。


「…っ、ぅ、」


帰る、

そう言おうとして、…もう限界だった。

異様に熱くて怠い身体に軽く眉を寄せ、顔を歪ませる。

オレの返答を待ち、じっと見下ろしてくるさっくんに、こくんと頷き、中に入れてもらった。


「ベッドで休んでいる生徒もいるので、扉を閉めていただけますか」

「…っ、あ、ああ、ごめん…」


ドアを閉め、恐る恐る振り返る。


「…それより、その、…今日は、仕事休むんじゃなかったのか」


とりあえず何か話してないと、意識を失ってしまいそうだった。

それほど、辛い。息を吸うだけで苦しくて、痛い。

目の前にいるはずのさっくんまで、ぼやけて滲みそうになる。


「……仕事、ね」

「…?」

「まぁ、あれだけ酷く御主人様を泣かせてしまいましたので、勿論俺はそのつもりだったのですが、」

「……っ、」


椅子に腰かけたさっくんが、やけに嫌味な言い方をして、何故かカーテンの締まっているベッドの方にスッと視線を向けた。


「逃げたりしないように、保健室で待機とのご命令を頂いておりますので」

「にげ、…?」


どういうことだ、と眉を寄せると、ふ、と柔らかく微笑む整った顔。


「冗談ですよ。俺が、ここにいたいと思ったからです」

「…っ、」


『…”彼女”のために』そう続けられるだろう言葉に、ぎゅっと唇を噛み、拳を握る。
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