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軽く引いてみても、離れない。
「あ、図星だ」
「っ、なんだよ。今は、さっくんのことは関係ないだろ…っ」
振り返れば、当たった、と人を出し抜いたような表情を浮かべている相手に、自分でも自覚するほど頬が熱くなる。
…飲ませてもらってて悪いか。みんなそれぞれ家での習慣は違うってさっくんは言ってたし。っていうか、色々心臓が痛いしムカつくからさっくんの話は今出さないでほしい。ていうか、もう金輪際出すな。
「さっきも言ったでしょ?僕は夏空が好きなんだよ」
「だからそれに何の関係が、」
異常なほどに近い距離と、「鈍感」と拗ねたように尖る唇。
「好きなら、嫉妬してもおかしくないよね?」
「…っ、しっと、…?…ッ、」
聞きなれない言葉に、掴まれた手ごと冷蔵庫に背中を押し付けられ、
…水を口に含んだ涼にキスされた。
(…え、?)
驚いて、目を見開く。
さっくん以外との、初めてのキス。
唇の柔らかい感触に、見慣れない友達の表情とか近さに、反射的に目をぎゅっと瞑った。
「ふ、ん、ん…っ、」
固く閉じた唇も、流石に体の酸素不足には敵わない。
息を吸おうとした瞬間に蛇のように舌が差し込まれ、水も流れ込んできた。
そっと離れていく唇に、身体の緊張を少しだけ解く。
「ね、夏空。ちゃんと飲んで?」
「……っ、」
教室で見るのとは違うように見える涼の火照ったような、発情しているような顔を茫然と眺めつつ、相手の口腔内の温度によって生暖かくなっている液体をごくりと飲み込んだ。
普段飲んでいる水より、どろどろしている気がした。
「初めてちゅーしちゃったね。僕達」
「な、んで、」
戸惑う。
嫌とか、どうとか、そういう感情より、ただ、ひたすらに混乱する。
喉は今の水で多少潤ったはずなのに、声は飲む前よりも上擦って掠れていた。
「好きだよ。好き。だからキスしようよ」
「っ、え、いや、…っ、だから、…ちょっと、ま…っ、ん、ぅ…」
「は、っ、キスしてる時の、夏空の顔マジ好き…、もっかいしよ…?」
首に両腕を回され、ぎゅって抱きしめられて冷蔵庫に押し付けられたまま、キスを繰り返される。
息をするたびに、触れた唇が、舌が、鼻腔に香る匂いが、…すべてがいつもと全然違って、たどたどしくて、それが余計に涼なんだと実感させてくる。
(なんで、オレ…涼とキス、して、)
「っ、男、同士、なのに」
「そんなの関係ある?雨宮先生ともしてたじゃん」
「だ、って、さっくんは家族、だから、」
「あはは、なぁにその変な言い訳」
いつもの好青年さなんて、欠片もない。
同級生のくせに日常で普段やってるみたいなやり方で何度もキスをしてくる。
小さく何かを聞かれて、酸欠でぼんやりとしてきた頭では何も考えられず、こくんと頷いた。
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