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……
…………
……………………
「夏空…様……」
「……」
ぴくり、考えるまでもなく…指が、呼応した。
ぼんやりと声の方向を見る。
(…ああ、…さっくん、だ)
キッチンのドアの前に立っている、見慣れた姿。
…けれど、
”あのやり取り”があったんだから、ここにいるのは、ある意味ありえないはずで、
「……、」
(…雨?)
初めに思ったのは、そんなことだった。
綺麗な白い肌に吸い付くように濡れた彼の黒髪の毛先から、今は雫が耐えず滴り落ちている。
…耳を澄ませば、いつのまにか、ダダダダと細かい粒が窓をたたく音がしていた。
(そっか。雨が降ってるんだ)
ひとりでにふむ、と納得した。
さっくんは頭から水をかぶったようにずぶ濡れで、もしかしなくても、傘をささずに雨の中をここまで歩いてきたのかもしれない。
吸い寄せられるように視線が奪われ、彼がまとっている雰囲気に…息を呑んだ。
普段浮かべている、誰からも見惚れられるような微笑みが今はない。
柔らかい空気も、一切ない。
「…………」
窓を叩く音以外はシンと静まり返っていて、自然と呼吸を潜めてしまう。
加えて、電気をつけていないからだろう。
部屋全体が薄暗かった。
…そのせいか、…むしろ、冷ややかな瞳をしているように見える彼の整いすぎた顔立ちはあまりにも表情がよめなくて、オレの心を酷くかき乱した。
「さっくん…?」
「…はい、」
オレの呼びかけに、応える声。
自分の唇から発した音なのに、随分と遠くに聞こえた。
「なんで、そんなに濡れてるの…?」
窓から零れてくる微かな明かりによって、かろうじで顔や首筋の肌だけがぼんやり浮かび上がっているようにその白さがわかるくらいで、
雨で髪だけでなく肩も服もすべてが重く暗い色に濡れているから、…なんていうか、弱々しく、打ちのめされているように見える。
「さっくん、大丈夫…?」
見上げて、オレより背の高い彼に…手を伸ばす。
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