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トマトを潰して滅茶苦茶にぶちまけた、その色に染まっているあれは、見覚えのある淡いベージュの、髪の、毛 と、 で。
鼓膜に残る声。
『宮永涼が、壊れた。貴方が壊した』
オレ、が、
「…っ、こわ、した…?」
言葉の意味を、一瞬理解しかける。
そんなはずない。
そんなことは、ありえない。
だったら、…これは、なんだ。
強張った手に、残っているこの感覚は、なんだ。
「なぁ、さっくん、オレ、」
これは、何だ、
脳の深い部分を潜って、探そうとすると、
「…嫌、だ…っ、」
叫ぶような涙声が、一層拒むような抱擁が、オレの思考を妨げ、現実に戻した。
「わ、…っ゛、で、」
「、嫌です。嫌です、夏空様、嫌です…っ。」
さっくんが、オレに縋る。縋って、懇願する。
その勢いで、背中から床に倒れた。ぐわんと視界が揺れて、けど、床に倒れた後もぎゅうぎゅうされ続ける。
さっきより体重がかかってきて、密着度が異常なほど増した。
「お願いです…っ、嫌だ、それだけは、どうか、」
「…っ、どうしたんだよ、ほんとに。嫌って、何が、」
オレの声が聞こえてないのかって思うほど、泣いて取り乱している。
この体勢のせいで余計に耳とか首筋に彼の吐息が触れてきて、ぎゃ、ってなった。
まとまらない言葉で、嫌だ、嫌だと泣きじゃくりながら、両腕が、オレを締め付けてくる。
「…で、」
「ぇ、」
何かを呟いた声が、あまりにも小さくて聞こえない。
息をとめるような呼吸が、顔を乗せてくる重さが肩にかかる。
「…お願いだから、頼むから、」
「うん。なに…?」
そのセリフさえも、消え入るように小さくて、耳を澄ませる。
そうすれば、切実に、懸命に囁き、震えながら彼は息を漏らして、
「――俺を、捨てないで」
掠れた声で、そう、祈るように重々しい願いを吐きだした。
「……っ、」
ドクン――っ。
胸の深い部分が傷を負う。
呼応、する。
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