23
”それ”を目に映した瞬間ゾッとして、冷汗が出た。
一瞬にして青ざめたオレの表情に、…ふいと視線が逸らされる。
そのまま、彼は軽く睫毛を伏せた。
「…醜い物を見せてしまい、申し訳」
「ッ、醜い、とか、そういう問題じゃなくて、…っ、何、なんで、」
こんな状況でそんなことを言うさっくんの言葉をさえぎって、ふるふると首を横に振った。
途中までまくり上げているワイシャツを掴む指が、震える。
「こんな酷い怪我、なんで、」
喉が、カラカラに干上がって、うまく話せなかった。
一回見たら脳に刻み付けられそうな光景に、今すぐにでも目を背けたくなる。
誰が、なんで、とか、血の気が引いた頭が鈍く疑問を浮かばせた。
…いや、でも、さっきまでさっくんと一緒にいたのは、
「…彼女が、俺に望まれたので」
「っ、!」
爪で深く深く抉ったような、何か別の道具で痛めつけることを目的に切ったような、…そんな感じの跡。
更に、…その上に口づけたのか、濃いキスマークが所々、その傷に上塗りをしていて、…桃井の異常なまでのさっくんへの執着を、叫びたくなるほどに見せつけられている気がした。
「世の中には…綺麗な貴方の前では言葉にするのも憚れるほど、歪んだ性癖を持った人間がいるんですよ」
その、鋭利な”何か”で無数に切ったような真新しい傷跡に、すぐにオレの目から隠そうと服を正して、……そうやって、何でもないことみたいに微笑む彼に、…全部に、声を上げて泣きたくなる。
だって、ミミズ腫れになってる。血が、沢山滲んでる、じわって、滲んだ跡が数えきれないほどある。
どうやってつけられたのか、どんな風にされたのか、…それが、この跡を見ただけで、勝手に脳内で想像してしまう、
「っ、なぁ、…すべて、って、ほんとに…全部従ったのか…?」
「はい」
喉が、詰まる。
でも、聞かないわけにはいかない。
なかったことには、できない。
「…っ、オレが言ったから…?オレがやれって言ったら、…さっくんはどんなに嫌なことでも、するのか…?」
できれば、そうじゃないって言ってほしかった。
さっくんが桃井を好きだからって言葉なんか絶対に聞きたくないけど、
でも、
オレのあんな些細な一言のせいで、さっくんがこんな目に遭ったなんて、信じたくなかった。
なのに
その震える問いに、
彼は、…当然のように 笑って。
「いいえ。嫌なことなんてありません」
眩しそうに、幸せそうに目を細めて、オレの頬に触れた。
「夏空様に頂けるご命令全てが、俺の幸せですから」
「…っ、」
その言葉に、泣きたくなる。
声を上げて、小さな子どもみたいに泣きたくなる。
「こんな傷作ってまで従えなんて言ってないだろ…っ?」
痛かったはずだ。
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