34
信じられない。
違うって言ってくれ。
命令してない、こんなことしてくれなんて言ってない。
ただ、オレは好きだって伝えただけで、
だから、あの言葉を命令だと思ってこんなことしてるわけじゃないって。
頼むから、そうじゃないって 今すぐ
声にできたらどれだけ良いだろう。
でも、そうだと言われてしまったらと考えて、口にはできなかった。
「好きじゃないのに、こんなことされても、オレは嬉しくない…っ!!」
くしゃ、顔が歪むのがわかった。
(…ああもう、やだ、)
瞼をぎゅっと閉じたまま、違う、と抗議した。
「でも、夏空様はこうされると嬉しいでしょう?」
「ぁ、あ、ぅうっ」
こんなの泣くしかない。
泣かないでいられるわけがない。
奥に挿入されて、もう全部知り尽くしたように短いストロークで弱いところを細かく突き上げられて抜き差しされる。
さっくんの表情だって、想像していたような甘いものじゃない。
冷めたような表情で腰を振ってるだけだ。
けど、そうやってどうでもよさそうにやっているのに、的確にイイところを突いてくるから、こんな会話をしていながらもすぐにイキそうになる。動かれる度に異常に腰が甘く痺れ、確かに脚が、下腹部が、全身がびくつく。
それに、と小さく呟く声。
「…他に、俺が貴方に与えることができるものなんかありません。」
「――っ、」
律動が止まった一瞬。
零された声は、
あまりにも… 空虚 だった。
人形のように綺麗な顔と、温度のない瞳。
影のある表情で、目的地を見失った子どものような仕草で睫毛を伏せた。
「そんなこと、」
「夏空様が気づいていらっしゃらないのなら、教えて差し上げましょうか?」
「…何、を…?」
瞬きをするオレの頬に触れ、柔らかく儚げに微笑む。
それは、食事の所作や挨拶の礼儀、そういう基本的なことを教えてくれるときのような笑顔で。
「貴方は、宮永涼と身体を重ねて…好きだと言った」
「…ッ、」
静かな声が紡いだ言葉に、息を呑む。
鮮明に思い出されて、つい視線を逸らしてしまった。
「それなのに、1日と経たずに俺とセックスをして、…好きだと仰られている」
「っ、でも、それは、」
(今になって気づいたからで、涼のは間違ってたってわかったから、)
そう言おうとして、さっくんの表情に、言葉を失った。
「…貴方が好きなのは、俺ではありません」
零される声音が、
いつも優しくて、癒されるようなあたたかい大好きな声が、
「ただ、気持ちいいことが好きなだけなんですよ」
「……っ、」
今は、酷く胸を抉った。
[back][TOP]栞を挟む