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信じられない。

違うって言ってくれ。

命令してない、こんなことしてくれなんて言ってない。
ただ、オレは好きだって伝えただけで、
だから、あの言葉を命令だと思ってこんなことしてるわけじゃないって。
頼むから、そうじゃないって 今すぐ

声にできたらどれだけ良いだろう。
でも、そうだと言われてしまったらと考えて、口にはできなかった。


「好きじゃないのに、こんなことされても、オレは嬉しくない…っ!!」


くしゃ、顔が歪むのがわかった。

(…ああもう、やだ、)


瞼をぎゅっと閉じたまま、違う、と抗議した。


「でも、夏空様はこうされると嬉しいでしょう?」

「ぁ、あ、ぅうっ」


こんなの泣くしかない。
泣かないでいられるわけがない。

奥に挿入されて、もう全部知り尽くしたように短いストロークで弱いところを細かく突き上げられて抜き差しされる。

さっくんの表情だって、想像していたような甘いものじゃない。
冷めたような表情で腰を振ってるだけだ。

けど、そうやってどうでもよさそうにやっているのに、的確にイイところを突いてくるから、こんな会話をしていながらもすぐにイキそうになる。動かれる度に異常に腰が甘く痺れ、確かに脚が、下腹部が、全身がびくつく。


それに、と小さく呟く声。


「…他に、俺が貴方に与えることができるものなんかありません。」

「――っ、」


律動が止まった一瞬。
零された声は、

あまりにも… 空虚 だった。

人形のように綺麗な顔と、温度のない瞳。
影のある表情で、目的地を見失った子どものような仕草で睫毛を伏せた。


「そんなこと、」

「夏空様が気づいていらっしゃらないのなら、教えて差し上げましょうか?」

「…何、を…?」


瞬きをするオレの頬に触れ、柔らかく儚げに微笑む。
それは、食事の所作や挨拶の礼儀、そういう基本的なことを教えてくれるときのような笑顔で。


「貴方は、宮永涼と身体を重ねて…好きだと言った」

「…ッ、」


静かな声が紡いだ言葉に、息を呑む。
鮮明に思い出されて、つい視線を逸らしてしまった。


「それなのに、1日と経たずに俺とセックスをして、…好きだと仰られている」

「っ、でも、それは、」

(今になって気づいたからで、涼のは間違ってたってわかったから、)

そう言おうとして、さっくんの表情に、言葉を失った。


「…貴方が好きなのは、俺ではありません」


零される声音が、
いつも優しくて、癒されるようなあたたかい大好きな声が、


「ただ、気持ちいいことが好きなだけなんですよ」

「……っ、」


今は、酷く胸を抉った。
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