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(…オレのことを好きになる人なんかいないのに、)
オレがちょっと他の男を抱き締めようとしたくらいで嫉妬した、とか言ってるけど、でもさ、…さっくんの方こそ、どうなんだよ。
自分のことを本気で好きな桃井と、…セックスまで、したんだぞ。
オレがどんだけ妬いたかとか思わないのか。
…それ以上の行為を、さっくんは易々としたんだってことを、どうして何とも思わなかったんだ。
段々キスの余韻で麻痺していた脳が現実に戻ってくる。
「……嫉妬なんか、しないだろ。」
こみ上げる熱い感情の波を必死に抑えながら、喉を震わす。
キスの余韻で熱かった唇も、今は冷え切っていた。
「さっくんは、オレを『好き』じゃ、ないんだから」
これがオレにできる精一杯の反抗だった。
…できるなら、好きって言ってほしい。
今でも、そう思う。
あの日、否定されたことは全部嘘だったと言ってくれるんじゃないかと、こうして問いかけるたびに期待する。
けど、
「…そうですね」
彼は、やはり訂正しない。
どれだけ縋っても、今日も肯定の返事は返されない。
「だって、貴方も気持ち良いことが好きなだけ、ですから。」
同じ、否定の音に何度目か胸が抉れる。
けれど、そう呟いたさっくんは
…寂しそうに、酷く陰惨とした笑みを零していて
前回とは少し違う雰囲気に、目を見張る。
…と、立ち上がって、オレの頭を優しく撫でた。
「無防備な夏空様もとても御綺麗ですが、」
「……?」
「…もう少し、警戒心をもってください」
後付けのようにその言葉だけを残し、立ち去ってしまう。
階段の方に消えたのを呆然と見送って
床に座り込んだ状態のまま、しばらく動けなかった。
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