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熱い頬を包むように撫でられる感触が酷く心地良くて、少しだけくすぐったい。
「相変わらず、俺を妬かせるのがお上手ですね」
「…やか、せる…?オレが、…?」
気持ち良さと熱を帯びる顔のどうしたらいいかわからない感覚に耐えつつ、目が笑っていないさっくんの酷く暗い表情に視線を奪われる。
「尻軽で有名な男性とあんな風に近くで見つめあって、御顔を、お身体を近づけられて、…どうなさるおつもりだったのですか?」
床にへたりこんでいるオレに視線を合わせるように目の前に膝をついている彼の口から零された、”やかせる”という未だに変換できない台詞が脳内でぐわんぐわんと回る。
「別に、あれは、」
「…それも、自身に好意を寄せているとわかっている相手に、です。」
微かに苛立ちを含んだ目に見つめられ…、違う、と今度は時間を置かずに言葉を返した。
「吉野は、別にオレのことなんか好きじゃ」
それに、吉野は見た目はちょっと軽そうだけど、尻軽なんかじゃないし。
むしろ、よく狙われてるのはさっくんの方だ、と言いかけて口を噤む。
「夏空様に淫らに誘われていると勘違いして、あの男が今後無理やり行為に及んで来たらどうなさるおつもりだったのですか」
「そ、そんなことするわけないだろ…っ、」
吉野とそういう関係になるつもりは更々ないし、そもそも、あいつから言ってきたことだ。
どうせ軽い冗談のつもりだったんだろう。
「貴方の想像以上に、人間は汚いんですよ」
「夏空様は大変無垢でいらっしゃるのでご存じないかもしれませんが」と呟き、若干の嫌味を声に滲ませて瞼を軽く伏せるさっくんに、…もう一度口から出かかった否定を飲み込む。
なんで、そうなるんだ。
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