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冗談やめてよ。
なんで。なんでこんなことに。
嘘。嘘。嘘。
どうして音海くんを庇うの。どうして、私の前に立ってるの。
どうして、そんな目で私を見るの。
「夏空様だけが、俺の――」
「…っ、やめてっていってるでしょ…!!」
拒絶。拒絶。
聞きたくない。咲人が私を否定する言葉なんて聞きたくない。
私より音海君を選ぶなんてありえない。
言わされてる。言わされてる。言わされてる。
「咲人は私が好きなの…好きに、決まってるの…」
頭を掻き毟る。髪が指に絡む。
ありえない。ありえない。
「許さないから。絶対に、許さない」
音海君を…音海を睨みつける。
ずっと邪魔だった。邪魔で邪魔で仕方がなかった。
今も咲人をいいように使って、許せない。
「明日から教室でハブってあげる。靴に画鋲をいれるのもいいわ。机の中に誰かの排泄物をいれてあげるのもいいわね。あはは、思いつく限り全てのいじめをして、心を壊してやる」
高笑いし、気が狂いそうな怒りをどうにかできないかと画策する。
そのくらいの報いは当然だ。受けて当然の罰だ。
「…どうすれば、夏空様に危害を加えないと約束していただけますか」
「なぁに咲人、まだそういう”ふり”を続ける気?」
音海を守ろうとするような素振り。嘘。演技。
納得はできないが、優しい咲人のことだ。まぁいいわと呟き…、この腹立ちを手っ取り早く消す方法はないかと思案を巡らせ、…「あ、そうだ」名案を思い付く。
「今この場で咲人が私にキスすれば、音海君に今後関わらないってことしてあげてもいいけど?」
「…っ、」
ただの思いつきだったが、言った途端、音海の顔色が明らかに変わったのが見えて多少の機嫌を取り戻した。
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