28

咲人が私とキスするって言ってるんだから、ごちゃごちゃ言ってないで受け入れなさいよ。


「咲人、…」


音海に向けるような優しげな笑みなんてなくてもいい。
それでも、…キスすれば何かが変わる気がした。


…けど、


「…え、」

「っ、」


音海が、咲人の首元のネクタイを引っ張る。


――目の前で静かに重なる唇に、

頭が真っ白になった。


「……(…は、…?…き、す…?)」


永遠に感じる数秒。

背伸びをし、瞼を閉じている音海の横顔。

…唇を塞がれた咲人の喉が、こく、と上下する。


「…さっくんはオレのじゃないのか」

「……――…」


小さく吐息を零し、離れる。
睨み上げる音海に、咲人は不意を突かれた表情を浮かべ、すぐには言葉を返せない。


「返事は」

「…は、い…、俺は、夏空様のもの、です…」


催促され、ようやく掠れた声を漏らし、目を瞬いて返事を返す。


「なら、するな。オレ以外とキスしていいなんて許可してない」

「…――、夏空、様…」


横暴にも聞こえる台詞に、彼は驚きを滲ませつつ、酷く幸せそうな、嬉しそうな顔を して、


「っちょっと、!何、勝手に…」


私がするはずだったのに。
なんで音海がしてるの。

意味がわからない。

どうして?
今咲人とキスしようとしてたのは私で、アンタじゃない…!!!!!

…咲人も咲人よ。何故?どうして?私が何したっていうの?
prev next


[back][TOP]栞を挟む