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咲人が私とキスするって言ってるんだから、ごちゃごちゃ言ってないで受け入れなさいよ。
「咲人、…」
音海に向けるような優しげな笑みなんてなくてもいい。
それでも、…キスすれば何かが変わる気がした。
…けど、
「…え、」
「っ、」
音海が、咲人の首元のネクタイを引っ張る。
――目の前で静かに重なる唇に、
頭が真っ白になった。
「……(…は、…?…き、す…?)」
永遠に感じる数秒。
背伸びをし、瞼を閉じている音海の横顔。
…唇を塞がれた咲人の喉が、こく、と上下する。
「…さっくんはオレのじゃないのか」
「……――…」
小さく吐息を零し、離れる。
睨み上げる音海に、咲人は不意を突かれた表情を浮かべ、すぐには言葉を返せない。
「返事は」
「…は、い…、俺は、夏空様のもの、です…」
催促され、ようやく掠れた声を漏らし、目を瞬いて返事を返す。
「なら、するな。オレ以外とキスしていいなんて許可してない」
「…――、夏空、様…」
横暴にも聞こえる台詞に、彼は驚きを滲ませつつ、酷く幸せそうな、嬉しそうな顔を して、
「っちょっと、!何、勝手に…」
私がするはずだったのに。
なんで音海がしてるの。
意味がわからない。
どうして?
今咲人とキスしようとしてたのは私で、アンタじゃない…!!!!!
…咲人も咲人よ。何故?どうして?私が何したっていうの?
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