22

***


さっくんなんか、知らない。

もうしらない。


「…夏空様、」

「……」


ぷい。

ソファーでテレビを見ていると、遠慮がちにかけられる声から、顔を背ける。

首がごきって鳴るくらい、そっぽをむいてやる。


「……夏空様」

「……」


ぷい。ぷいぷい。

そんな寂しそうな声を出したって、しょぼくれた雰囲気をしたって、振り向いてなんかやらないんだからな。


「触るな」

「…っ、」


伸ばされた手を、跳ねのけた。

…もしかしたら、傷つけたかもしれない。

おこってるはずなのに、何故か一瞬怯んでしまう。

けど、

(今日だけは、ぜったいに許してやるもんか)

そんな気持ちにもかかわらず…背けた方の顔は既に半べそをかいていた。


「ですが、…」

「……」


おろおろと心配そうにするさっくんに、知らんのだ、と訴えるように壁の方を向き続ける。

…きっとその手にあるのは、新しい冷えピタ。

額にぺたっていつの間にか貼られていた冷えピタは、熱くなっていてほとんど意味を成していなかった。


(…う゛、声出すと頭いたい…)


潤む瞼を閉じ、荒く熱い息を何度も吸い込み、吐き出す。

身体の節々がギチギチと痛んで、更に苦しみを生む。


……どうしてこんな風になっているかというと、あの日、オレは熱を出した。

さっくんの腕の中で何度もイって、気絶した後もしばらくイき続けて、ビクビクが止まらなかった日。

気づいたら布団の上で寝てて、身体が凄く怠くて、頭が痛くて、気分が悪かった。

…でも、今怒ってるのはそれが理由じゃない。
熱が出るのは良くあることだし、だからそんなことで、ここまで怒ったりしない。


「…う、」


思い出すとじわり、涙が滲む。
体育座りでひざを抱きかかえているうでに、ぎゅっと力を入れる。


「……さっくんなんか、きらいだ」


ずきり、じわり、胸が熱くなる。

…あのとき、あの瞬間、アレを言われた時からずっと引きずっていた。

”厭らしい”

思春期なオレはやっぱりそれがいちばん傷ついて、言われたくない言葉だった。


「……正孝なら、あんなに酷いことしないのに」

「……っ、」


子供じみた、ちょっとした仕返しのつもりだった。


「正孝は、オレが傷つくことなんか言わないでもっと優しくしてくれるのに」


さっくんの方が、意地悪なえっちの時以外は断然優しい。

それはわかってる…けど

でも、あの発言だけはどうしても許せない。


「…さっくんなんか、大っきら.ッ、ぃ゛?!」


膝に顔を埋めたまま涙声で何度も嫌い、大嫌い、とそう叫んでいる最中、

…突然何かに強く右手首を掴まれ、上に持ち上げられた。


「っ、ぃ゛…っ、た…」


骨が軋むような痛みに、思わず声を上げて泣きたくなる。

(痛い、)

誰がオレの手首を掴んでいるのかなんて考えなくてもわかっていた。

だから、何するんだと、抗議のために顔を上げる。


……と、


「……っ、え、」


きっと、痛いことしてきてもからかってるみたいな感じで、いつもみたいに優しく、少し困ったように微笑んでるんだと思っていた。

あと、オレがずっと無視し続けてたから、ちょっとぐらいは怒ってるかもしれない…それぐらいの覚悟はしてた。


…けど、そんなオレの予想に反して、

なんだか凄く冷たい表情で瞼を軽く伏せているさっくんの顔が目の前に迫っていて、強引に唇を奪われる。

そして、息が詰まる程乱暴で…噛みつくようなキスをされた。
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