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「…っ?!ん゛ん…っ、」
苦しくて、じたばたと足を動かす。
(また、すぐこういうことする…っ)
怖い雰囲気に胸を冷んやりドキドキさせながらも、文句のひとつでもいってやろうと眉を寄せた。
けど、離れたと思ったらすぐに唇を塞がれ、言葉は消されてしまう。
…しかも、いつもしてるような優しいやつじゃなかった。
「…っ゛!んぅ、っぅ……っ」」
…血が滲んだんじゃないかって思うほど無理に押し付けられた唇を舌でなぞられたかと思ったら、下唇を噛まれる。
滲んだ血さえも舌でなめとられ、じわりと涙があふれた。
痛くて、いやがれば嫌がるほどキスが激しくなる。
全てを奪われちゃうんじゃないかってくらい、獣みたいに荒々しくて、余裕なんて一切なくて、
…吸盤みたいに何度も唇を吸われ、自然と開いた唇の隙間から、慣れたようにぬるりと舌を押し込まれそうになった。
その感触に、ぼやぼやってなってもっていかれそうになっていた意識をなんとか戻し、口をかたく閉じる。
頑固としてしんにゅうを拒んでいると…諦めたのか、ゆっくりと離れていく唇にほっと息を吐いた。
おそるおそる、きつく閉じていた瞼を薄く開く。
…と、
「…きらい、ですか…?」
「…――っ、」
キスのせいか、熱のせいか、生理的に目を潤ませた涙によって滲んだ世界で、
…冷たく、怖い雰囲気だったさっくんの表情がくしゃりと変化した。
まるで数秒後に世界がなくなるみたいに、…もしくは、もう既になくなってしまったみたいに、
酷く感傷的に、今にも泣き出しそうな顔を悲痛に歪ませている。
「…っ、…本当に、…俺のこと、嫌い…?」
敬語じゃない…子どもみたいな聞き方。
そうして、いつもより何故か幼く見える表情で、泣き笑いにも似たいびつな笑顔を浮かべた。
それを間近で見て、…ひく、と狭まった気管で、息をする。
…そんな顔をされたら、…嫌いなんて言えるはずがない。
それくらい…わかりやすく彼はオレのことばに傷ついて、狼狽え、泣きそうになっていた。
もしまた同じことを言ったら、簡単に何かがガラガラと音を立てて壊れ、もろく崩れていきそうだった。
「…お、れ…は、…んぐ…っ」
気持ちが伝染したみたいに、感情が揺れ、戸惑う。
そうして微かに開いた口からこぼれようとする言葉を怖がるように、その形の良い唇を半開きになってるオレのそこに押しつけてきた。
後頭部を掴む手によって抱き寄せられ、オレが何かを言おうとするたびにすぐに何度も何度もまた唇を重ねてくる。
その都度執拗に角度を変えながら捩じ込まれる舌に、強引に熱い舌を引きずり出された。
ひたすらに舌を絡ませられ、痺れるほど舌同士をすりすりさせられ、吸われ、飲まされ、はぁはぁと浅く荒く、あつい息を吐く。
毎回してるときよりもっと早く、ちっそくぎみになった。
キスもだけど、それだけじゃなく熱もあって頭がくらくらして身体も節々痛くて苦しいのに、…そんなオレを気遣ってくれる様子もない。
普段キスするときみたいに微笑んでもくれない。よしよしって頭も撫でてくれない。
…そういうのは何もしてくれないのに、口付けられ、歯の一本一本を丹念に舐めまわされて、舌の付け根の唾液がたまる場所をわざと音を当てて啜られる。
ただ、身体だけがじわりと快感を受けた時の反応をして、気持ちはおいてけぼりのままだった。
ただでさえ熱を出している身体にそんなことをされ、脳みそが蕩ける。
熱い、
全身が、熱くて熱くてたまらない。
ふわふわな頭の中で、ふいに思う。
(…もしかしてこれも、いつもさっくんがしたがるやつと同じなのか…?)
………違う、気がする。
家族の証だって安心するためじゃなくて、
何か…別の感情が、言葉に出来ない程恐ろしい何かが、触れた場所からぞわぞわと伝わってくる。
……得体のしれない怖いものが、くろいかげみたいにおそいかかってくる。
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