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(…それにしても、ここまで胸がドキドキしてワクワクして待ち遠しくなることって今まであったっけ)
なかった。あるはずない。
恋する乙女のように早鐘を打つ心に、笑む。
誕生日には、うんとお姫様みたいに扱ってもらおう。
そして夜には、いっぱい抱いてもらうの。
今までの経験から、どうしたら男を気持ちよくさせられるかは大体わかってる。
この男だってそう。
顔だけじゃなくて、セックスが上手な私から離れられない。
でも、沢山性行為をしたって言っても相手のことが好きだからじゃない。
所詮、今のだって予行演習だ。
――全ては、咲人とするための練習台。
当日には処女に生まれ変わった私を抱いてもらって、精一杯恥ずかしがって初心な振りをしながら、沢山奉仕する。
…きっと彼は、”初めてでこんなにセックスが上手いなんて”って、びっくりするだろう。
けど、『嘘じゃない。本当に初めてなの』って照れながら告白して、そんな私を彼は愛しいって思うはずだ。
…あんなに格好いいんだもん。
咲人自身が初めてってことはないだろう(初めてだったら初めてに越したことはないけど)から、その昔の女たちと比べても一番良いよって感動して嬉しがってくれる。
そうして、王子様はシンデレラに溺れて、夢中になるの。
…結局運命で結ばれてる私たちは、一度交わってしまえば、もう離れられない。
たった一夜で、彼は私を手放そうだなんて絶対に思えなくなるはずだ。
「そのために、準備しなくちゃね」
「準備?」
「……そう。とっておきの、準備」
痛いってわかってる。
けど、舞踏会に参加するお姫様には絶対に必要なものだもん。
それがなきゃ、参加する資格すらなくなってしまうし、彼の為なら喜んで受け入れたい。
ママもパパも賛成してくれた。お金も出すって約束してくれた。
…ああ、自然と顔が緩んでしまう。
「明日、処女膜再生の手術を受けるの」
さぁ、今度こそ、愛しい人に破ってもらおう。
「…うわ、マジ本気じゃん」
「王子様を射止めるなら、そのくらいしないとね」
引いたような顔をする男に、アンタなんてそうする価値もないぐらいクズのくせに、と内心で吐き捨てた。
――――――――
(すべては、運命の王子様に見初められるために)
その為なら、どんな痛みだって楽しみに変わるのよ。
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