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ぐぬぬ、と悔しい気持ちを抱えて、もう一度挑戦。
がばっと両腕を構えて狼のように襲い掛かる。

と、…今度はその手をきゅ、と優しく握られてにこりと微笑まれた。


「あんまりはしゃぎすぎると転んでしまいますよ」

「こ、この歳で転んだりしない…!!」


しかもはしゃいでるわけじゃない。
そもそも、今のはどう考えてもさっくんが悪いのに。

子ども扱いするな、と睨み付けても何の効果もなかった。


「っ、は、離せ…っ!」


余裕綽々の笑みが本当にムカつく。

思い出したくなかったのに。
全部忘れておきたかったのに。

(…あんな、屈辱的な出来事…)

掴まれた手だけでなく、全身がぷるぷるする。


「ばか…っ、さっくんのばかぁ…ッ、いじわる…っ!」


掴まれてる両手をぶんぶん振ってわめく。
…けど、その掴まれた手はまったくといっていいほど振りほどけない。


「照れて真っ赤になられている夏空様の御顔も、大変可愛らしいです」

「…っ、う、ううううるさい!!もう良い!!これ以上何も言うな!」


叫んでばっと腕を振る。
今度は呆気ないほどその手は離された。


(…うう、)


さっきのでもう充分顔が熱くなったと思っていたのに。
これ以上どこにそんなエネルギーがあったのかと思うほど全身火だるまになる勢いで熱い。


「…嗚呼、加えて思い出しました。先ほどの一件では、善意から俺が御手伝いさせて頂こうとしたのに…」

「まだ続けるか?!!」


流石にここまでいじめてくるのは酷い、と目が飛び出るかと思うくらい驚いた。
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