20
恋人になるのかな。
優さんなら、意中の相手を落とすのは簡単なはずだから。
なら、
「…おれ、…は、…」
おれは、なに…?
泣いて楽になれるのなら、それで救われるのなら、喜んでそうする。
けど、泣いても変わらない。
泣いたって、傷は軽くなるどころか深くなるばかりだ。
抉られる。
刺されて、抉られて、何度も傷つけられる。
いっそのことここまで辛い痛みに耐えないといけないのなら、その手で殺してほしかった。
「っ、なんだよ。さっきから邪魔ばっかりしやがって!!俺と流羽を両想いにするって言ったのは嘘だったのか?!」
「…………え…?」
正樹の言葉に、耳を疑った。
耳がおかしくなったのかと思った。
両想い?
俺と、正樹を…?
「…う、そ…」
今度こそ、真っ暗な闇に突き落とされたような気分で目の前が世界から音が消えた。
冗談を言っているとは思えない程正樹の顔は真剣だった。
声が涙に溺れて音にならない。
とめどなく流れる涙が頬に落ちる。
「…流羽を俺から引き離せなかったのは君自身のせいだよ」
淡々と呟く優さんの表情は読めない。
意識して隠しているのか、それとも本当に何の感情も浮かんでいないのか、それすら俺にはわからなかった。
正樹に帰るように言葉をかけた優さんが、俺の手を縛っていた紐を外してくれる。
その数秒間で、少しでも近づいた彼にどうしようもないほどの喜びを全身に感じてしまった自分に、また泣きたくなった。
(…優さん、)
優さん、優さん、優さん、優さん、
香りがする。
涙であふれた視界に、彼が見える。
手を伸ばせば、すぐに触れられる距離にいる。
「…っ、…優さ、」
「ねぇ、私は?」
やっとのことで吐き出した声をかき消すタイミングで、女の人の声が被さった。
俺が腕を回し、温度を求めようとした彼を奪うように、目の前でその身体が別の人間に抱き締められる。
「優、さっき言ってたでしょ?その子がイッたらキスするって」
「…――っ、」
心臓が凍り付く。
温度を下げ、末端から血の気が引いた。
明らかに俺を意識した呼びかけ方。
…優さんを抱き締め、顔を胸に寄せている彼女の表情が、媚びている声が、…期待を明らかに物語っている。
「キス、しようよ」
「…そうだね」
受け入れた声を聞いた瞬間、ぐらりと世界が壊れた。
比喩じゃなく、上下の平衡感覚が失われる。
色が真っ暗になる。
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