21
「…ほ、んと…に…?」
掠れて落ちた言葉は自分にさえ聞こえない。
するの?
嘘じゃないの?
ほんとに…キスするの?
不安と恐怖と絶望で、喉が締まる。
首まで心臓が飛び上がったように息苦しい。
優さんの肩に手を置いた女の人が、少し背伸びをする。
目の前で、近づく二人の距離。
「…めて、」
やだ。
しないで。
しないでしないでしないでしないで。
キスなんか、しないで。
…夢を、見ているんだと信じたかった。
睫毛を軽く伏せている優さんの整った横顔に、躊躇は一切見えない。
本当に、してしまう。
このままだと、
いつも、俺にだけ見せてくれるその表情が、簡単に あっけなく晒されて、
それを こんな目の前で、
「…っ、ぅ、あ、あ゛…」
優さんは、簡単にできちゃうんだ。
俺がすぐ傍にいるのに。
嫌だって、こんなに言ってるのに。
…俺をいないものみたいに扱って、
「…もう、いい…」
塩味の雫をとめどなく頬に伝わせながら、嗤う。
全部、どうでもいい。
優さんがしたいなら、すればいい。
俺だって、散々他の人とそういう行為をしてるんだから。
彼が望むなら、好きにすればいい。
「――…」
諦めに似た気持ちで、瞳に映す。
”好きだよ”って言ってキスしてくれた彼を、
”流羽にだけ、特別”って抱き締めてくれた彼を、
……追いかけるのはこれで最後にしよう。
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