27


(…え、)

横を見れば、振り上げられた拳。
その手に握られているのは、…灰皿、で

――殴られる…っ、

恐怖に目を瞑るのとほぼ同時、

ガツッと鈍い音が響く。


「…っ、な、ん…で、…?」


驚愕に満ちた声は自分か彼女…どちらのものか。
ぎゅっと俺を抱き締め、庇うようにして殴られた優さん。

痛みに顔を顰めていた彼は、驚きを隠せずに見上げる俺と目が合うと…冷気さえ感じさせる瞳を細めた。

たらーっと殴られたらしい場所から血が垂れてくるのを見て、…血の気が引く。


「ゆ、優さん、ち、血が、血…!!」

「大丈夫だよ」

「全然、全然大丈夫じゃない…っ、当たりどころが悪かったら、」


慌てて怪我を確認しようとして、更にぎゅうっと抱き締められる。
腕の中に閉じ込められて、優さんの匂いで満たされた。

ふー…と息を吐き、首筋に顔を埋めてくる。
「大丈夫だから、心配しないで。…むしろ、ちょっとまともになれたかも」と痛いはずなのに全くそれを感じさせずに意味のわからないことを言う。


「なんでそんなやつ庇うの…?玩具なんかを庇って殴られて、ばかみたい…っ!どうでもいいから、正樹に犯させたんじゃないの?!それに、さっきから『それ』が恋人だとか、」

「……」


本当は優さんを今すぐに治療しなければいけないのに、耳に届いた声にびくっとして硬直してしまう。…耐えられなくて、視界から彼女を隠すように俺を抱き締めてくれている優さんの首元に顔を寄せ、腰元の服をぎゅぅ、と掴んだ。


「可愛いって言ってくれたし、優の恋人は、…好きなのは私…だよね?」


信じられない、と呟く彼女の声は怯えと怒りを滲ませている。ガチャン、と大きな音を立てて何か固いものが地面にぶつかる音がした。床越しに振動が伝わってきた。


「優、さん…」


相変わらず腕の中に閉じ込められたまま、怖くて震えていた。
…抱き締めてくれているからといって安心はできない。
こうしてくれているからといって、彼に限っては自分に都合のいい返答をしてくれるとは思えなくて。

冷たくなる指先に、生きた心地がしない。
それでも、その震えに気づいてなのか頭を撫でてくれる手だけが唯一の救いだった。
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