5

そうして、考えるたびに突き付けられる現実に絶望し、自分に失望する。


「…?」


手を掴まれ、緩慢な動作で振り向く。
…と、彼女は俺を見上げ、踵を上げた。


「ねー、流羽君、ちゅーしよ」


小声でそう呟いた彼女が、顔を近づけてきた。

…キス、されようとしているのはすぐにわかった。

でも、うまく頭が回らなくて反応できない。
どうして俺にそれをしようとするんだろう。

なんで、


「……」


ふと、もしこれをしたら優さんが嫉妬してくれたりしないかなってちょっと頭をよぎった。

"俺と流羽を両想いにするって言ったのは嘘だったのか?"

正樹の言葉を思い出し、胸が尋常じゃない程痛む。
…どうして、優さんはそんなこと言ったんだろう。

俺と別れたいから?
好きって言ってくれたけど、本心では俺と一緒にいるのが嫌だった…?

…優さんは、もしかしたら俺がこうすることを望んでて、…だから、いつもあんなことを俺にさせるのかもしれないと…ふと、思ってしまった。

それに、…きっと俺が他の人とキスしても、優さんは何とも思わない。
…普通の恋人同士みたいに、…傷ついたり、妬いたりなんか、…しない。

(…そっか。どうでも、いいのか)

身体から力を抜き、軽く瞼を伏せる。
受け入れるように、自分からも顔を寄せようとして


「……っ、」


…止める。

ああ、だめだ。
どうして、

優さんじゃないと思うと、身体が震えてしまう。
…嫌だと、心の底が叫んでいる。


「…ごめ、…ん…俺、」


まだ酒で火照った頬を動かし、小さく首を振 って


「――え、」


……少し視線を動かした瞬間、

そこにいるはずのない人物に…、気づく。


「………優、さん…?」
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