5

驚き、勝手に止めていた呼吸に気づく前に、あっけなく身体はあっけなく離れていく。
と同時に、唇の間からするりと煙草を抜かれた。


「…………な、…っ、いま、いまの、何、」


数秒遅れて、どうしようもないほどに熱くなる頬。

実際に唇が触れたわけじゃないのに、彼のあの、遥かに蠱惑的な表情を間近で見てしまい、拝めてしまい、どうしていいかわからなくなった。

……どうして、なんで、……そんなに、嬉しくて、ひどい、そういう、美貌と色香で人を誑かす悪い男の人、みたいな表情ができるんだと文句をいいたくて、頭から離れない情景をなんとかしてほしい。

ああ、心臓が痛くて苦しい。頭の中がめちゃくちゃだ。


「俺は、ご褒美をあげただけだよ」

「……ごほうび…?」


何の話かと、わけがわからずに小首を傾げる。

「るうが、キスしたいってうるさいから」と飄々と薄く整った唇の端を上げて微笑む彼に、俺は先程の行為の意味をやっと理解した。


(……シガー『キス』、)


ああ、そうか。
納得し、絶句し、少し遅れて拗ねる。

してやられたと思った。


「…っ、言ったけど、」こういう意味で言ったわけじゃ、ない。


熱を帯びている頬に、…喉の奥で低く笑う、楽しそうな声が返ってきた。

prev next


[back][TOP]栞を挟む