6


唯人が結婚するなんて、そんなの考えたこともなくて。


…もし俺が女だったら


「やめて、それだけは……」


そんな風に言って唯人を引き留めることができたのかな。

目をぎゅっと閉じれば脳裏に唯人と女が一緒にいる光景が浮かぶ。

零れる涙を拭うようにシーツに顔を押しつけて嗚咽を漏らした。


「っ、ゆいと…」


「何?」


(……え、)


…聞きなれた声。

ちょっとぶっきらぼうで、でも優しい彼の声。

予想外な返事に驚いて涙が止まった。

床を歩く音がする。
シーツに顔を埋めたまま固まって動けない。
その数秒後、音を鳴らしてベッドが少し沈む。
すぐ傍に気配を感じて息を呑んだ。


「あれ何?」

「へ、」


普段のトーンで問いかけてくる声に顔を上げると、頬を涙が伝って落ちる。
それをみた途端、唯人が複雑そうな顔をした。


「…なんで泣いてんの」

「だ、だって」


いないと思ったのに。

結婚式があるはずなのにスーツじゃなくて私服のままだ。

いつも泊まりに来る時と同じで俺の服を着て
風呂に入ったのか髪が濡れている。


(…なんで…)


絶句すれば、「で?」と言葉を投げてベッドを軋ませながら顔を近づけてきた。


「ぎゃ…っ、何だよ!」

「俺のこと好きって…どういう意味?」


至近距離で瞳を見つめられてドキリと胸が鳴る。

どういう意味…なんて、そんなの聞いてくるなと言いたい。

どうせ唯人は俺の気持ちには応えられないんだから。


「そんなの知らな」

「……本気にしてもいい?」

「は?」


その形の整った唇から放たれた言葉にぽかんとした。

呆気に取られる。


「や、でもお前…結婚するんだろ」


目を逸らし、俯きながらぎゅううと痛む胸を堪えた。

ああもう泣きそうだ。


「…さぁ、どうだろうね」

「は?!さぁって、」


何だよそれ。

落ち込んで涙を浮かべる俺とは違って、平常運転で揶揄うような唯人の態度に段々腹が立ってくる。


「それより、昨日のお前すげえエロかったんだけど」

「…っ、別に、何回も経験済みだから、」

「…初めてのくせに」

「は?」


(……"初めて"?)

ぼそりと呟かれた言葉に、身体が硬直する。
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