04

とくべつ


大学の昼休み。私は、先程再提出を言い渡されたレポートのことで悩んでいた。
気晴らしにと食堂に来たはいいものの、そこで頼んだせっかくの新メニューも喉を通らない。

「もう、どうすればいいの……」

講義はちゃんと聞いていたつもりなのに、何が足りないのだろう。
悩みつつも目の前の昼食に手を伸ばすと、私の席の右隣に盆が置かれる。誰か来たのかと隣を伺ってみれば、先程まで違う講義を受けていた同級生だった。彼――生駒は私の気も知らず、まるで曇りのない太陽のような笑みを浮かべている。

「あ……なんだ、生駒か」
「『なんだ』ってなんなんや。それより、隣ええかいな?」
「隣?別にいいけど……」

――いいよね、あんたは。何も悩みなんかなさそうで。
そう言いたくもなるものの、軽口を叩き合えるまで親しい仲でもないことを思い返し堪える。

「ちゅうか、浮かへん顔してるけど……どないしたん?」
「……あんたには関係ないでしょ」

私が受けている講義のことだ、受けていない彼に訊いても仕方がない。そうわかっているから、これに関しては何も話すつもりはなかった。
ただ、そんな私に構わず首を突っ込んでくるのがこの生駒だった。

「俺に手伝えること、なんかある?
「ないよ。生駒は受けてない講義のこと訊かれても困らないの?」
「あー……せやったらしゃあないな。受けとったら教えられたのにな〜」
「そうだよ。わかったならもうほっといてよ……」

放っておいてくれとは言ったものの、女の子とあらば声を掛けずにはいられないことでお馴染みの生駒のことだ。きっと、私も例外ではない。
そしてその予感は見事に的中し、彼は何やら鞄を漁り出した。

「……ん?」

少しの沈黙ののち。彼が鞄の中から取り出したのは林檎飴が入った袋と、爽やかなベルガモットの香りが漂うアイスティーのペットボトルだった。
どうやら、あとで食べてくれということらしい。

「えっと……差し入れかな?」
「そや。疲れてる状態で頭を回してもしゃあないで」
「うん……まあそうなんだけども……」
「なっ。少し気分転換してみよ?」

せっかく気遣ってくれたのだから、ありがたく受け取っておくべきだろう。
だというのに、どこか引っかかってしまう。それは。

「……そうするね」

それは他でもない。生駒はなぜ、ここまで私のことを気遣ってくれるのかということだ。
けれど、それは案外すぐに推測ができた。きっとそこに深い意味など何一つなくて、単純に私が彼の好きな『女の子』だからだろう。たまたま私という『女の子』が食堂で悩んでいたから手を差し伸べただけで、結局は女の子相手なら誰でもいいのかもしれない。だからそれ以上の何かを期待するべきではないし、する気もない。
わかってはいるが、互いに黙っているのも場が持たないので一応訊いてみる。

「あのさ……今更変なこと訊いていい?」
「ん?なんや?」
「あんたさ、なんでそんなに気遣ってくれんの?」
「当たり前やん。好きな子が元気なくしてるんやで?力になりたない奴がどこにおるん?」

至って真剣な顔で生駒が返した答えは、私の推測を少し外れていた。
彼は『カワイイ女の子』が、ではなく『好きな子』が、と言ったのだ。どうせ誰にでもこんな態度をするのだろうと思っていた、けれど彼はその推測を否定したことになるのだ。

「……ちょっと待って。今『好きな子』って言った……?」
「うん、言うた」
「それって、どういう……」
「ん?俺、結構真剣に特別扱いしとったつもりなのに。気づいてへんかった?」

――そうか。
私の気も知らず笑顔で隣に座ろうとしてきたのは、彼なりの特別扱いだったのか。

生駒のことなんて今まで全く意識したことなかったのに、今から少しでも意識してみるかと思考が働いてしまう。
全く、悩みを増やしてどうするつもりなのだろうか。

「あ……うん、今気づいた」
「ほな、やっと俺のこと意識してくれたことやし。このまま一緒にお昼食べよ」
「いいけど……なんでそうなるの?」

そのまま、成り行きで一緒に新メニューを食べることと相成った。
そこから押し切られるままに彼との交際を始めたのは、言うまでもない。

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