01
ひだまり
手のひらで掬い上げた陽だまりのようだと思った。
太陽に隠された陰など知らず、ただその手の中から溢れんばかりの温もりと明るさを享受していた。
それでも。
「なあ、**」
――明るいだけの太陽ではないと、知ってしまった。
***
「どうしましたか、准さん」
副くんと佐補ちゃんはまだ学校におり、コロは外で餌を食べている。防衛任務や広報の仕事も、今の所は入っていない。
今は私と、部屋で2人の時間だ。デート――と呼んでもよいのだろうか。
――ああ、いけない。今はそんなことを考えている場合ではない。
1秒でも長く、准さんの側にいなければ。
だって。
こうやって声をかけてくる時に、続く言葉は大体決まっているのだから。
「**は、俺から離れていったりしないよな?」
――まただ。
准さんは時々、こうやって私に確かめるように問うてくる。
離れてはいかないか、側にいてくれるのかと――私からすればそうできるだけで贅沢とも思えることを、当然の如く求めてくるのだ。
彼は隊員の脱退を経験していて、その時は明るく送り出したつもりでいても、ふと寂しさが蘇ってくる時があるのだろう。
「離れるなんて……そんなわけ、ないじゃないですか、」
「そうだよな、」
そう言って半泣きになりながら私を抱きしめる准さんの腕は少し痛いくらいにきつくて、近界民を倒すときの力とどちらが強いのだろうかと疑ってしまう。
「……って、痛い痛い!」
「あ……ああ、すまない。お前が離れていくと思ったら不安になってしまって」
「もう……准さんがいれば、私は大丈夫なのに……」
どうにか安心させようと、彼の背中に手を回して撫でる。
普段の准さんからは想像もつかない、副くんにも佐補ちゃんにも桐絵ちゃんにも、自分の隊の隊員にも見せない顔。ヒーローがマスクで覆い隠した、脆くて柔らかい素顔。
私だけが、それを知っている。
――私だけなのだ。今の彼の側にいてやれるのは。
「そうか、俺がいれば大丈夫なんだな?」
「あ……はい、准さん強いですし」
「じゃあ、」
ようやく安心を取り戻したのか、泣き止む彼。
その代わり、いつも通りの使命感に燃えたのだろうか――何にせよ、痛いくらいに抱きしめる腕が解かれることはない。けれどいずれ解かれるだろうと、抵抗もせずそのままにしていた。
数秒後。
「えっ……准、さん?」
「離れないように、俺が守ってやらないとな!」
ガチャン、という音と共に両手に感じた違和感。
冷たい感触からするに、手錠だろうか。一体、どこからこのようなものを仕入れてきたのだろう。
「わ……っ、その、これ……は?」
「だって、こうしないと**はどこかに行っちゃうだろ?確か、トリオン兵に狙われたこともあったよな。でも、もう絶対に指一本触れさせない。俺とお前の間には誰も立ち入らせない」
私が口を挟む隙など与えないというように、准さんが語り続ける。
待って。准さんってこんなに過保護だったっけ?
副くん達にも、溺愛しているとはいえこれほどまでに過保護な態度は見せていなかったような気がする。
「ずっとずっと、側にいてくれるよな?」
「准さん、それは……」
「今日も明日も明後日も、死ぬときも俺と一緒だよな。なっ!」
太陽に隠された陰は、しかし陽だまりとは違う、じりじりと焼けついてしまいそうなほどの熱を孕んでいて。
けれどその陰を、その熱を拒むことは、あの温もりと明るさを手放してしまうことと同じような気がしてしまったから。
「はい……ずっと一緒です、准さん」
受け入れることしか、できなかった。
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