01
きっかけ
今日もいつも通り、奈良坂さんに訓練をつけてもらっている。
表向きは『彼の元でなら正確な精密狙撃を習えるから』と説明しており、それで周りも納得している――けれど。
本当の理由は、まだ言えない。
「そろそろ出よう。俺はこの後用事があるからな」
「あ、はい。そうしましょう」
私もそろそろ出ようか、と。そう思いドアを開けようとした――その時。
「……どうしましょう、奈良坂さん!」
「ん?**、何が……」
アクシデントが起きた。
今使っているこの訓練室のドアが、開かなくなったのだ。
「あの……ドアが開かないんです!」
「何だって?」
奈良坂さんも扉を開けようとしてくれたが、彼の力でも開かなかった。
トリオンでできたこの壁を壊すことも考えたものの、そんなことができるのはさすがに雨取さんくらいのものだ。しかし、今現在この場所には私と奈良坂さんしかいない。
救援を呼ぼうにも、その呼んだ相手がここまで来られるかどうかが問題だ。
「……本当に開かないな。故障か?だとしたら、本部からアナウンスがあってもおかしくないはずなんだが」
「開くまで待つしかないのですかね……」
「だとしたら早く復旧してほしいところだな。今日はたけのこの限定商品を買う日なのに……!」
いつもは冷静沈着な彼も、たけのこ絡みだからか珍しく焦っている。
彼のためにも、早くここを抜け出さなければ。接近する機会ができた、などと喜んでいる場合ではない。
と、噂をすれば本部からのアナウンスが。
『こちら、ボーダー本部です。現在、一部の訓練室の扉をロックしております』
「……何だ今更。出られる方法でも見つかったのか?」
『ロックされていることで、訓練している相手との距離が縮まって嬉しい方もいれば、この後用事があり帰らなければ困るという方もいるかと思います』
相手との距離が縮まって嬉しい方――は、きっと私のことだ。
この後用事があり帰らなければ困るという方――は、奈良坂さんのことだろう。
訂正しよう――これは、アクシデントではない。
本部職員が、意図的に仕込んでいるのだ。
城戸司令や忍田本部長に許可を取ったのかとか、ロックされる基準が何なのかとか。それは今はどうだっていい。
どうやって出るか――それだけだ。
出たくはない気持ちもあるにはあるが、それだと彼が私のせいで困らされる形になってしまう。
『そこで、皆様に朗報です!』
「……え?」
『今から言うミッションをこなすか、あるいは一定時間まで待てば開きます♪』
どうやらこの後本部職員が提示するミッションがあるらしく、それをこなすかあるいは一定時間まで待つかしかないようだ。
ミッションが何なのかにもよるが、きっと「互いの好きなところをあげる」だの「キスをする」だの、こういう系のシチュエーションにありがちなものなのだろう。それらをこなすにしても、かといって訓練以外で2人だけの時間を過ごすのも緊張してしまう。
第一、私達はあくまでも師弟で、私からの好意はあれどそれが実っているわけではないのに。
『ミッションいきます――「お互いに告白」してください!なお、恋愛的な意味でなくても構いません!」
沈黙。
奈良坂さんに、私が――?
「……やるしかないな」
「う、嘘…………」
「何でもいいらしい。何か、俺に言うことはあるか?」
さっさとこなして出てしまおう。そうと決まったからには、やるしかない。
元々、実るわけでもないからと諦めて、そのままにしていただけで。
どうせ、いつかは言うつもりだったのだから。
「あ、あの!奈良坂さん!」
「ん?」
どうせなら――今、言ってしまえ!
「す…………好き、でした!ずっと!」
「……**?」
「だから、その……これからも、訓練だけでも側にいさせてください!」
と……やけになって言ってしまったものの、やはり後悔はあるわけで。
引かれてしまったかと、恐る恐る反応をうかがう。
「あの……駄目、ですよね?」
「駄目なわけないだろう。むしろ、俺からも頼む――側にいてくれ」
それを聞いた、瞬間。
本部の職員に届いたのか、扉のロックが外れる音がした。
「……あ、開きました!帰りましょう!」
「ああ。じゃあ、まずは一緒にたけのこを買いに行こう」
2人換装を解いて、出口に向かう。
一時はどうなることかと思ったが、接近どころか告白のきっかけをくれたこの部屋とミッションには少しだけ――本当に少しだけ、感謝をしておこう。
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