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リビング、テレビの前。
入ってきた俺に気づいたのか、彼女――真結は甘ったるい声で俺を呼ぶ。

「あ、本物のよいちゃんだー……」

俺をこんなふうに呼ぶのは、他でもない彼女だけだ。本物の、とわざわざつけているのはさっきまで俺がいた世代のBLTVを見ていたからだろう、その証拠に当時の中継配信を収めたDVDのケースがテーブルの上に転がっている。
それよりも、今は真結の目の前にあるブランデーボンボンの袋が気になって。俺は酒にあまり強くない自覚があり、酔い潰れて練習や試合に遅れてしまったら元も子もないのであまりアルコールを摂らないようにしているのだが――彼女がそれを美味しそうに食べているのを見ると、どうしても興味が湧いてしまうのだ。先程、差し入れにもらった大好きなきんつばをひとりで食べたばかりだというのに。

「ほひいのー……?」
「ん。真結が食べてるから、美味しいのかなって」

けれど袋の中を見るに、真結が食べているそれは今さっき彼女が口に放り込んだので最後だったらしい。それならば仕方ないかと、彼女の口から直接食べることにした。
彼女の上に覆い被さるようにソファーに座り、まだ口の中に入っていたボンボンを奪い取るようにして唇を塞いで――そのまま入れた舌と2人分の熱で、それはぐしゃりと溶けて潰れた。

「んん……っ、」
「ん、甘……」
「よいちゃ、ぁ……んぅ、ふぁ……っ♡」

何度も何度も角度を変えて口づけて、ときおり舌で上顎を舐め上げる。それを繰り返すうちにアルコールの力もありすっかり力が抜けてしまったようで、やがて真結はへにゃりとソファの上に倒れ込んでしまった。
だらしなく開いた両足の間に、逃げられないよう膝を割り込ませて。見下ろした彼女の顔はとろりと蕩けていて、瞳には涙を浮かべていた。

「ぁ……よいちゃん、食べ終わったら……ごちそうさま、はー……?」
「まだだめ。……まだ、満たされない」
「欲張りだね、よいちゃんはー……」

ああ、そうだ。俺はどうせ、真結の全部を喰らい尽くしてやらないと気が済まないエゴイストだよ。あのDVDに映っている俺を見ていたなら、わかるだろ。
だからさ、真結。もっと俺を満たしてくれよ。

「ああ、」

全部、喰ってやるからさ。

***

ソファーの上。寝転がした真結に覆い被さって、何時間が経つだろう。
本当は彼女のためにベッドに運んでやりたいところだったのだが、熱のこもった声でよいちゃん、と呼び縋られればもうそんな余裕もなくなって――結局はそのままここで貪っているというわけだ。

「ん、……ぁ、よいちゃ……っ♡」
「……かわい、」

脱がせる時間すら惜しくてある程度はだけさせただけの服から覗く、真結の艶めかしい肢体。至る所につけた痕を指先でなぞる度にびくりと震えるのが、本当に可愛らしくて。
噛みついて、吸いついて、繰り返しいくつも痕を残して――彼女は周りにやきもちを妬かれるからとこうされるのをいつも嫌がるのだが、俺にはそんなこと関係ない。周りから見た俺がどうであろうと彼女の前ではただの潔世一でありたいし、そうあるべきだと思っているからだ。

「って、よいちゃ……そこ、かんじゃだめ、だってば……♡」
「また見られるかも、って?真結は俺だけのなんだから、何も問題ないだろ?」
「そうだけど……でも、よいちゃんは……んん、っ♡」
「今は真結だけの俺だよ、わかってんだろ」

ただひたすらに真結を求めていたい、満たされたい。そんなエゴの前では必死に手に入れた――幼い頃からの夢だったプロとしての立場さえどうでもいいと思えてしまうのだから、恐ろしいことだ。
いやいやと首を振る彼女を咎めるように再び深く口付け、まだ舌に微かに残るブランデーボンボンの甘さを追いかけて絡め取る。もちろんその間も激しく抽挿を繰り返していればまた絶頂を迎えようとしているのか、ぎゅっと締めつけが強くなった。

「よいちゃ……ん、……んむ……んん〜……っ!♡」
「……ん、真結、」

達する瞬間に零れた声もそのまま全て飲み込んでやれば、真結はくたりと力を抜いてぼんやりとした目でこちらを見つめてきた。この調子だと、そろそろ意識が飛びかける頃だろう。
けれど、まだ――まだこれでは全然足りないとすら思ってしまう俺は相当なエゴイストだな。なんて自嘲しながら、次に被せる分のスキンを手に取った。 2023.08.13