結び目は脆く緩い

俺はお嬢――**の血をもらってから、自分があれほど憎んでいた吸血鬼にさせられた。憎んではいたが、彼女のことは救われたこともあり、信頼している。

『えっと…お嬢様、とでも呼べばいいのか』
『なあに、そんな堅苦しい。向こうではそう呼ぶの?』
『そりゃあ、そう呼ぶ人もいるだろうな。じゃあ…お嬢、か?』
『…それでいいわ』

**は第6位始祖で、「鉄の女」と呼ばれている…と、ミカが言っていた。鉄の武器を持って戦う姿とか、彼女の強い意志や振る舞いとかを評して、こうつけられたらしい。何せ第6位ということはあのフェリドよりも一つ上なのだ。
俺は一応彼女の従者ということになっているが、いつだったか戦ったことがあるあいつ――クローリーの従者のようにはなれないし、なろうとも思わない。あの2人は訳あって貴族の身で従者になっているようだ。拾われた恩で従者という位置に落ち着いた俺とは事情が違う。

「…お嬢、」
彼女の銀髪を掬い上げて、軽く引っ張る。
「あら?どうしたの、優一郎」
俺のことを優一郎、なんて呼ぶのは彼女くらいだ。ミカやフェリドは優ちゃんと呼ぶし、クルルやクローリーは優と呼ぶ。
「お嬢って、今までの時間は退屈だったんだろ、」
「そうね、生涯が長いものだから呆けてしまいそうだわ。それとも…優一郎、それをあなたが埋めてくれるとでも言うのかしら」
彼女はさも期待しているように笑う。

気づいたら、右手で**の肩ごと引き寄せていた。彼女が覆い被さりかける。
「自信はないけど…叶えて差し上げましょうか、お嬢様?」
――何を考えているんだ。いくら従者だからといって、そこにつけ込んではいけないことぐらい、頭ではわかっているのに。
「そう、埋めてくれるのね?」
「お嬢が望むなら。で、どうするんだ?」
「…しなさい?」
「了解。…じゃあ、これ解こうな、」
目の前に垂れ下がった黒いリボンの結び目を解いた俺は、きっとこの後**の何も巻かれていない白い首元を傷つけ、そこから滲み出るはずの赤い血を啜りでもするんだろう。ああ、そんなんじゃミカを殺しかけた時のフェリドと同じじゃんかよ俺。
だけど、どこまでも**と落ちていくというなら、もうそれでいいやって――