首輪代わりに決まっている
私は優一郎を拾い上げて、血を飲ませて同胞に加えた。彼を従者にしてから気づいたことがある。
それはいくつかあるのだが、そのうちの一つを挙げるとすればこれだ。
――優一郎は、歪んでいる。
と言えども、彼が実験体だとか、人間だった頃に鬼と契約していたとか、そういう意味ではない。歪んだ上で振り切れているのだ。どこか危ういほど、極端に――
それでもやはり手放せはしないのが現状であった。私自身、抱え込んだ寂しさを埋めてくれる誰かをずっと求めていたところに、彼が運悪く嵌ってしまった――そこまではまあよかった。
けれど、そのうち優一郎が持つ名前通りの優しさに寄りかかることに、私の心が慣れてしまったのだ。
彼は時折、従者というよりは教育係のような接し方をする。
「いくらでも蕩かしてあげましょうね、俺の可愛いお嬢様?…なんて」
などと言われたら最後、思いっきり立てなくなるまで精神共々壊されるのには気づいていたのに。私はどうしてその手を振り払えなかったのだろう。
彼が敬語を使うなんて不自然だ、とか考える余裕もなかった。
「ね、待って優一郎、」
「どした?」
私が止めようとしたって、彼は平然と笑うだけ。私のブレーキが効かないわけではなく、あえて流しているのだろう。
「放っといてよ、」
いい加減距離を置かなければ私はきっと依存から抜け出せないし、このままではまた壊されてしまうではないか。
けれどどうやら逃げる術はないようで。
「またそう言って。放っといてしばらくしたら、寂しいとか言って縋り付くんだろ?」
彼の答えはいつも同じ。抜け出そうとするのを何回も繰り返しているから、見透かされても何らおかしくない。
「っ…でも、そうしなきゃ壊れちゃう、」
「壊れればいいだろ、何回でも」
よしよし、と撫でられるだけで崩れそうになる。崩れたら支えられて、振りほどけばやがて立てなくなり、また支えられての繰り返し。子が親に甘やかされすぎると自立できなくなるとはよく言ったものだ。私も多分最終的には、完全に何かに寄りかからなければ生きられなくなるのだろう。
心ごと壊されて蕩かされるとはこういうことなのだと、脳ではないどこかが知る。
***
「ね、優一郎ってば、」
何回目だろうか、縋り付くような声で呼ばれる。
「もう許して、お願い、」
はらりとこぼれ落ちた雫を拭う。これではまるで、俺が**を責めているようではないか。
「許して…って、お嬢は何か勘違いしてないか?別に悪いことしたから拷問してるって訳じゃないんだけどな、」
「だったら離してよ、もう無理なの、」
**が、ふるふると首を横に振って懇願する。だが、「離してほしい」なんて聞き飽きたことだ。――諦めさせるに決まっている。
「悪いけど、それは聞いてやれないな、」
抱き締めるようにして顔ごと押さえつけた。どうせ**が離れられないことは知っているし、あえて彼女の命令に逆らってまでこうすることもないのだけれど。
「…もう、頭が回らないの、」
手で顔を上げさせれば、焦点の合わない双眸で俺を見上げる**。
「ああ…わかってるって。だから側で支えてやらないとな、」
他でもない自分がそうさせている、という事実に軽く酔いかける。
「首輪、着けようか?」
「…いいけど…優一郎に、着けてほしい…」
答えを聞いた後で、やっぱりいいや、と思い直す。
従者が主人に首輪を着けるのは不自然で、普通は逆だ。それに、特に何かで縛り付けなくても、互いが互いのものだということは変わらないのだから。
けれど、あくまで命令だ。確認した上で、執行するしかない。
「はいはい。…本当にいいのか?」
「何回も言わせないで、」
「それじゃあ、」
彼女の銀髪を上げて、布を回して首の後ろで留める。
「でも普通は逆だろ?」
「確かにそうね、」
箱から揃いのものを取り出して、同じように自分の首に巻いて後ろで留めた。まあ首輪というよりは、クルルがしているような…チョーカーと呼ばれるものなのだが。
「お嬢って、こういうのも似合うよな、」
するりと真っ白な首筋を撫で上げる。
「っ…そうかしら、」
一瞬びくっとしたのは、手袋を着けずに触れたからだろう。**に触れるときはいつも外しているのに。
どちらが主人だかわからなくなるほど、**は俺の前で蕩けてゆく。普段は従っている側が主導権を握っている…倒錯的とでも言うのだろうか。
この状況を周りはおかしいと言うのだろう。けれどもう、俺は堪らなく好きになっていて。
「お嬢、もうちょっとだけな、」
ちょっとだけ、などというものではない。もう、戻れやしないのだ。