君の見てる夢

「**、」
「ん、どしたの」

俺には付き合っている人がいる。杉澤第三高校時代の同級生だった****だ。
少し前に親の仕事の都合で東京に引っ越してきたらしい彼女に告白して合意を得た結果、今現在に至っている。
そいつのタイプはジェニファー・ローレンスとは少し違うけれど、それでも確かに俺は彼女のことを好いているといえる。一緒にいると楽しいし、まだ苗字でしか呼べていないが呼べばちゃんと応えてもくれる。

けれど、あいつはどうだろうか。
あいつは……

***
 
「……あれ。いつもの虎杖くんに戻ってる」
「ん?……ああ、主導権の話?」
「主導権?よくわかんないけど……まあ、いっか」

宿儺から主導権が移った途端に、**は少々寂しげな顔をする。それはなぜか。
憶測に過ぎないが、考えうるのはひとつ。

あいつが好きなのは、俺であって俺じゃない。

もしそれが本当だとしたら、俺自身を好いていないあいつが俺と一緒にいてくれる理由は俺の身体だろう。性的なそれではなく、『宿儺の魂を宿す器』という意味で。
それが理由だとしても一緒にいられる喜びを享受する俺と、俺自身を見ていないことに悩む俺で板挟みになってしまっている。

「あ、でもさっきみたいに『痴れ者が〜』とか、『小娘』とか言ってる虎杖くんもかっこよかったなー……」
「…………」

**は俺の中の宿儺が『呪い』であることを知らず、ただ『俺のかっこいい側面』くらいに思っている……らしい。浮かび上がる全身の文様も、黒く鋭く伸びる爪も、ただのメイクやネイルとしか思っていないのだろう。
本当は「そいつは俺じゃなくて宿儺だ」と訂正してやりたい――そして宿儺ではなく俺自身を見てほしいとも思う――のだが、呪術師ではない彼女をこちら側の事情に巻き込む訳にもいかないので一応スルーしている。
ただ、それもいつまで続くのかはわからない。

『ほう……小僧はあの小娘のことを好いておるのか?』
「ちょ、お前……いきなり出てくんな!」

そう思っている間に出てくる宿儺。
**との時間を邪魔されたくなくて必死に抑え込む、も。

「……あれ?なんか今虎杖くんの手が喋ったような……」
「その、それはな……?」
「大丈夫大丈夫!ちょっとびっくりはしたけど、どうせ腹話術か何かでしょ?」
「腹話術ってお前なあ……」

――いや、やっぱスルーなんてできねえよ!
手に現れて喋る宿儺を腹話術だと思っている**に驚きつつも、『呪い』を知らない彼女のためにどうにかかいつまんで説明する。

「――だから、あいつは俺に取り憑いてる……なんだろう、怪物?って言えばいいのかな……とにかくそういう存在であって俺じゃねえんだってば!あれはメイクでもネイルでも腹話術でもねえの!」
「えーと……つまりどういうこと?あのかっこいい虎杖くん……宿儺さん?は虎杖くんじゃない……ってことでOK?」
「うん……まあ、大体それで合ってるよ。それでなんだけど、」

**が説明を理解したと判断し、緊張しつつも恐る恐る切り出す。
ここで「私はあっちの虎杖くんしか好きじゃないから別れよう」などと言われてしまったらどうしようか……などとも一瞬思ったが、ここで言わなければきっと宿儺ばかり好かれている状況は変わらない。

「お前が付き合ってるのって、俺とだろ?ならそっちだけじゃなくて……そのままの俺も好きになってほしいというか」
「……へ?」
「だから!宿儺ばっか見るなって言ってんの!」

固まった彼女の表情が苦笑いへと変わるのは、何秒かした後だった。
流石にいきなり手を掴まれた上でこうも強く言われれば、驚くのも無理はないだろう。

「んー……ごめん、やきもち妬かせちゃったかな?」
「やきもち……ああ、まあそんなとこ」
「確かに、私が付き合ってるのは虎杖くんだもんね」

その返事に安堵した俺は、**の手首から手を離した。
さて、この後は今話題の映画を観に行く予定だ。彼女が観たいと言ったその映画は、既に2人分のチケットを予約している。

人前で宿儺が出ないように気を遣うのは少々面倒だが、やはりあいつといる時間の楽しさは何物にも代えられないものなのだ。