ひかり、ひかれ。
日傘もサングラスも手放さず、私が漂うのは仄暗い闇の中。ぼやけた光を手繰りながら、夜を泳いでいる。行き先ならば全部手の中の電光が教えてくれるけれど、私がほしいのは、そうじゃない。
ねえ、チカ。覚えてるかな。私は覚えてるよ。
いつも正しいはずの君でさえも、あの日からずっとある点を間違えていたのを。
『周りは狡噛しか見てない』
『自分のことは、誰も見てくれないんだろうな』
違うよ。誰も君を見ていないって、それは違う。それが本当なら、君しか見ていない私はどこにもいないことになるでしょう?
私をいないことになんて、しないでよ。私はずっと――
君だけを、見ているのに。
***
私はシンがいなくなった後に、二係から異動してきた。ここが新たな私の戦場だと、手の中の電光はそう示す。
「アカネちゃん、どうしたの?」
一係としては先輩だが、公安としては後輩の彼女。監視官としては、同格。
彼女に許されたこともあり、今はアカネちゃんと呼んでいる。
「今日、キャンディがね…」
「ああ…あの子ね。アカネちゃんの、」
キャンディ、というのは彼女が自室で使っている、立体ホログラム表示サポート人工知能の名前だ。聞けば、海月のような形らしい。
「はい。**さんも?」
「うん。ルクス、っていうの。るーちゃんって呼んでる。蛍の形をしてるの」
「かっこいい名前…意味とかは、」
「ラテン語で、『光』」
「光…?」
私はよく、周りを光に例えてしまう。
アカネちゃんは、名前通りの優しげな夕日。
ヤヨイちゃんは、無機質なサイリウム。
ミカちゃんは、真っ直ぐなレーザーの光。
ショウくんは、朧げな蛍の光。
「そう、光。アカネちゃんは…そうだな、夕日に似てる。暖かくて優しいけど、チカとはちょっと違うの…どこかお母さんみたいなさ、」
「夕日…ですか。狡噛さんは、」
「シンは、手の届かない打ち上げ花火かな。昔からそうだったの」
そう、昔から――あの頃から、そうだった。
世間が目を向けるのはいつだってあいつばっかで、私も巻き込まれて何度も勘違いされたのを、今でも鮮明に覚えている。
違うの。そっちじゃなくてね。打ち上げ花火のようなあいつじゃないの。
手が届かないほど遠い存在なんて、初めから私はほしくなかった。手に入れることができたとしても、嬉しくなんかない。
「憧れていたんですか、」
「そうやって昔も勘違いされたなあ…でもね、違うの。シンは…少し苦手なんだよね」
そう、彼は少し眩しすぎた。
眩しすぎて、私を含めた誰もが彼を見ていると、そう勘違いされていた。私がずっと見ていた、本人でさえ。
「それなら…狡噛さんじゃなかったら、一体…」
「そう、隣の」
「えーと…宜野座さん?」
「うん、そう。伸元だから、チカ。…私はずっとチカしか見てないんだよね。それを、本人でさえシンを見てるって勘違いしちゃってさ、」
「光に例えると、何ですか?」
「チカは、線香花火かな。手を伸ばせばすぐそこにあるような、暖かくて柔らかい光が…ずっとほしかったんだよね、」
そう、 線香花火の持ち手を離さないで、その先のぱちぱちする火花だけを見ていたいの。
ねえ、チカ。どうして君は気づかないの。
君の光はいつも君の隣にいる友人に、シンにかき消されてしまうけれど、私はそれに目を当てようなんて思わない。
考える度に、わからなくなってくる。
チカに気づかせたいのは、認めさせたいのは、なんだったか。
君を見ている誰かがいるという事実か。あるいは――君しか見ていない、私か。
それでも、取り消させたいのは、訂正したいのはひとつだけ。
誰も見てくれないなんて、全部失ったなんて。
勘違い、しないで。