私は改めて、台の向かい側に座る男に姿勢を正して、玲瓏と告げ頭を下げる。
「私は、当家主人…
こちらは、
「小生は…“げん”と申す」
「げん様…」
げんという男は、名乗ると頭を下げて私の目を奪った。
何という、綺麗な所作をする御方なんだろう。
「げんで良い、管乃殿」
顔を上げて、私に向けられた視線にどきりと心臓が跳ねる。
「へいへい、おっさんの名前はげんね、っってぇえッ!!」
「…いえ、当家にお泊まり頂く以上、貴方様はお客人であらせられますから、呼び捨てになど…」
自分の事に精一杯だった私の目を盗み、歌留多がまた不躾な事を言っていたので、叩いて無視をする。
繕うように私が言葉を紡いでいると、長船が台に身を乗り出してげんに話し掛ける。
「げんさんっげんさん!
げんさんは釣人さん?」
「うむ」
「わぁ、格好いい!」
無邪気にげんと話す長船を、可愛いなと思いつつ、隣りで騒ぐ歌留多に視線を移す。
「てぇぇなッ…
ちくしょっ…暴力女め」
「黙れ化猫」
冷めた瞳で言い捨てると、八ツ羽がいつも通りに仲裁にやってきた。
「まぁまぁ、落ち着いて。
管乃も歌留多も。
喧嘩する程仲が良いのは、知ってるからさ…ね?」
「な、仲良くなんかねぇッ!!
勘違いすんなッ!!」
「ふぅん?
じゃあ、手伝いなさい…」
少し紅くなりながら必死に、歌留多が否定する。
ちら、と私に視線を向けて言ってきたけれど、意味が分からない。
そして、それを意味深な含み笑いを零しながら八ツ羽が、納得しているようでしていない声を漏らせば、次の瞬間にはにっこりと微笑んで言った。
「はぁッ?」
「どうせ暇でしょう?
掃除手伝ってくれる」
「はぁぁッッッ!?
ふッッざけんなッ!!」
手を差し延べて言う八ツ羽に、歌留多はその手を叩き落としながら言った。
八ツ羽が、わざと痛そうに擦りながら呟く。
「…冗談なのに。
そんな嫌がらなくても…
歌留多に手伝って欲しくないです。
むしろ、大人しくしている事が貴方の手伝いです」
「うあッ…お前、まだ障子の件を…」
「ふふふっ…それ以上言うと、シメて差し上げますよ」
冗談っぽく言っている八ツ羽の目は、全く笑っていない所を見ると、本気でやりそうだ。