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始まりの一日 3

私は改めて、台の向かい側に座る男に姿勢を正して、玲瓏と告げ頭を下げる。


「私は、当家主人…
 管乃すがのと申します…
 こちらは、長船おさふね歌留多かるた八ツ羽やつはねで御座います…」

「小生は…“げん”と申す」

「げん様…」


げんという男は、名乗ると頭を下げて私の目を奪った。
何という、綺麗な所作をする御方なんだろう。


「げんで良い、管乃殿」


顔を上げて、私に向けられた視線にどきりと心臓が跳ねる。


「へいへい、おっさんの名前はげんね、っってぇえッ!!」

「…いえ、当家にお泊まり頂く以上、貴方様はお客人であらせられますから、呼び捨てになど…」


自分の事に精一杯だった私の目を盗み、歌留多がまた不躾な事を言っていたので、叩いて無視をする。
繕うように私が言葉を紡いでいると、長船が台に身を乗り出してげんに話し掛ける。


「げんさんっげんさん!
 げんさんは釣人さん?」

「うむ」

「わぁ、格好いい!」


無邪気にげんと話す長船を、可愛いなと思いつつ、隣りで騒ぐ歌留多に視線を移す。


「てぇぇなッ…
 ちくしょっ…暴力女め」

「黙れ化猫」


冷めた瞳で言い捨てると、八ツ羽がいつも通りに仲裁にやってきた。


「まぁまぁ、落ち着いて。
 管乃も歌留多も。
 喧嘩する程仲が良いのは、知ってるからさ…ね?」

「な、仲良くなんかねぇッ!!
 勘違いすんなッ!!」

「ふぅん?
 じゃあ、手伝いなさい…」


少し紅くなりながら必死に、歌留多が否定する。
ちら、と私に視線を向けて言ってきたけれど、意味が分からない。
そして、それを意味深な含み笑いを零しながら八ツ羽が、納得しているようでしていない声を漏らせば、次の瞬間にはにっこりと微笑んで言った。


「はぁッ?」

「どうせ暇でしょう?
 掃除手伝ってくれる」

「はぁぁッッッ!?
 ふッッざけんなッ!!」


手を差し延べて言う八ツ羽に、歌留多はその手を叩き落としながら言った。
八ツ羽が、わざと痛そうに擦りながら呟く。


「…冗談なのに。
 そんな嫌がらなくても…
 歌留多に手伝って欲しくないです。
 むしろ、大人しくしている事が貴方の手伝いです」

「うあッ…お前、まだ障子の件を…」

「ふふふっ…それ以上言うと、シメて差し上げますよ」


冗談っぽく言っている八ツ羽の目は、全く笑っていない所を見ると、本気でやりそうだ。

狗の雨宿り