2.彗星のように
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気が付くと暗闇の中で落ちていく感覚がずっと続いている気がする。
恐らくそういう目眩なのだろう…早く起きなくてはと急く気持ちはあれども、どうにも体が思うように動かない。
むしろ、体の感覚がない気がする。………まずい。明日のために無理して準備したプレゼン資料が、全て水の泡に帰してしまう。
私がやらないと、あの上司と後輩がちゃんと出来るわけがない…。困った…本当に困った。

思い悩み過ぎて、なんだか頭痛を生じてきたあたりで、目の奥に閃光が走った。それは強い光で、真っ暗だった視界を一瞬にして真っ白に塗り替えた。
ドクンッ…今までなりを潜めていた心臓がようやく動き出したようだ。感覚のなかった体に力を込めて、まだ眠いと訴える瞼を持ち上げた。

そこは、まだ夢だった。
よくある話で、目覚めたという夢に違いない。
空を見ていたはずがうつ伏せになっているし、自分の部屋、ましてや病院のベッドというわけではない。髪の合間からちらほらと見える景色に全く見覚えはない。
石造りの壁と豪奢な赤い絨毯だ。残念ながら、海外に渡航歴はないので比較は出来ないけれど、中世ヨーロッパの城のイメージである。
肌に感じる絨毯の毛触りが心地いい…
このまま眠ってしまおうかと、夢の中で更に眠るというおかしな状況になっていると、ガチャリ…ギィィと扉が開く音が聞こえた。
毛の長い絨毯でも殺せてないバタバタといった足音と、はっはっ…と獣じみた吐息が遠くから駆け寄ってくるのを感じる。
閉じていた瞼を再び持ち上げると、そこには黒い大きな生き物がいた。一匹の大型犬に見えたそれは、違った…思わず目をしばたかせた後にひゅっ…と喉が鳴った。

…なんで頭が3つあるんですかね?!

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狗の雨宿り