過ごしてきた日々
物心ついた頃には既に一緒にいた。
親同士の繋がりもあり、よくお互いの家を行き来していた。
幼き頃から一緒に遊んで、ご飯を食べ、お風呂に入って、眠った。
体が弱い山岳の両親は昔からお仕事で家を留守にする事が多々あり、湊はよく1人で退屈そうにしている山岳の元へと遊びに行っていた。
『さーんーがーくー!』
「あ、湊ちゃん」
『今日は何して遊ぶー?』
「んー、そうだなー」
『あ、このゲーム私も持ってる!これしよ!』
「うん、いいよ」
『やったー!』
いつも退屈そうに過ごしてる山岳は湊といる時は楽しそうだった。
そんな基本的には退屈そうにしていた山岳はある日を境に一変した。
山岳の家のお隣に住んでる宮原ちゃんが山岳のことを心配してサイクリングロードに誘った。
その時、ロードバイクに出会った山岳は自転車に夢中になった。
山岳といつも一緒にいた湊は元気になっていく山岳を見て嬉しい反面、湊よりも関わりが薄い宮原ちゃんが山岳をここまで元気にさせた事に軽い嫉妬心を覚えた。
そんな湊もまた親に強請ってロードバイクを買ってもらった。
宮原ちゃんに対するちょっとした対抗心だった。
『山岳』
「どうしたの?湊ちゃん」
『私も、ロードバイク乗り始めたの!』
「え!?本当!?」
『うん!山岳と一緒に走りたくて!』
「うん!一緒に走ろう!」
山岳に笑顔を向けられるのが嬉しくて、かなり長い道のりでも、傾斜が急な坂道でも山岳の背中を追いかけるように一緒に走った。
それは幼い頃からずっと変わらなかった。
『山岳、高校どこ行くの?』
「箱根学園!」
『たしかにあの学校自転車競技部が有名だけど、山岳の偏差値的にきついんじゃない?』
「…湊ちゃんはどこに行くの?」
『箱根学園…かな』
「じゃあ一緒だね」
『ちゃんと勉強しないと落ちても知らないからね』
「うん、まあ、ほどほどに」
へらっと笑う山岳の笑顔に湊はつられて笑った。
受験勉強は宮原ちゃんが山岳の面倒をみていたみたいだけど、その光景は見たくなくて受験が近付くにつれ、湊は山岳の部屋には足が遠のいた。
合格発表の日、湊はネットで合否を確認した。
ディスプレイにうつった"合格"の文字に安堵のため息をついた。
その時、家のチャイムが鳴り渡った。
「あら、山岳くん、いらっしゃい」
「こんにちは、おばさん」
「湊なら、部屋にいるわよ。ほら、あがってあがって」
「うん、ありがとう!お邪魔しまーす!」
『お母さん、誰か来たの?って山岳』
「最近湊ちゃんが来てくれなくて寂しかった!」
『えっ』
「まあ!2人ともそういう感じ?!」
『どういう感じだよ』
「カレカノ的な?」
『ち、違うから!』
「あら、残念。でもお母さん山岳くんなら大歓迎よ!」
『はいはい、それで山岳どうしたの?』
「オレ、箱根学園受かってたよ!」
『え!?本当!?私も受かってたよ!』
「あら!めでたい日じゃないの!お祝いしなくちゃね!」
「だからロード誘いに来たんだ!」
『え、今から!?』
「もちろん!行くでしょ?」
『うん、行く』
「2人とも気をつけていってらっしゃいね」
「『はーい』」
湊と山岳は箱根学園に受かった日に山に登った。
頂上に着くと久しぶりの運動に湊は地面に寝っ転がって荒い息遣いを整えた。
「また、湊ちゃんと走れるね」
『そうだね』
中学までの関わりにならなくてよかったと湊は内心思いながら、山岳に笑顔を向けた。