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 拳が飛んできたと認識した時にはすでに、吹っ飛ばされた身体が勢いよくフェンスにぶち当たっていた。
 痛みに蹲る俺の腹に、容赦なくヤクザの革靴がめり込む。
「――かはッ…!」
 さっき食べたばかりのラーメンが逆流して、アスファルトに飛び散る。
(あぁ、もったいねぇな…)
 820円もしたのに。どうせ吐くんなら、ラーメン食うんじゃなくて馬券でも買っとけばよかった。
「お前、借金いくら踏み倒してるか分かってんのか?」
 高そうな黒のスーツを着たヤクザが、胃液まみれで地面に這いつくばる俺をゴミを見るような目で見下す。
「そ、それは…」
 正直、自分の借金が今いくらあるのか分からない。働きもせずに適当な女の家に入り浸り、消費者金融から借りた金をギャンブルに注ぎこんでいたら、いつの間にか首が回らなくなる額まで借金が膨れ上がってしまっていた。
 金を貸してくれる身内もいない俺には、借金を返済するあてがない。
「返せないなら沈められんのか…?」
 このヤクザは平気で人を殺しそうだ。
「東京湾にか? はっ、そんなことしても、金は返ってこないだろう」
「じゃあ、俺はどうなるんだよ…」
「身体で返すんだよ。ついてこい」
 ヤクザはそう言い放つと、踵を返して黒塗りの高級車に乗り込む。
「………えぇ? どういうこと?」
 俺はヤクザの舎弟に脇を抱えられ、引きずるようにして車に乗せられた。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-