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「――永、岩永いわなが!」
 薄っすらと目を開けると、そこには北折の顔があった。
「……北折?」
「岩永!大丈夫か?」
 気づけば俺は、先ほどまでいたはずの森のふもとを走る道路上に寝そべっていた。
「北折、俺…」
「心配したんだぞ!急にいなくなるから。でも良かった、すぐに見つかって。あと少しで救助を呼ぼうかと思ってたんだ」
「…すぐに、見つかった?」
「あぁ、俺らがはぐれてから、まだ30分くらいしか経ってないぞ?」
「30分……」
 朦朧とした頭で思い起こす。俺は北折とはぐれてから、30分ぐらい森を彷徨って、その時…。草むらから黄金色の瞳が…。
「狼!――痛ッ!」
 勢いよく起き上がろうとした瞬間、腰に激しい痛みが走った。
「大丈夫か!?」
 北折が慌てて俺を抱きかかえるように受け止める。
「腰を痛めたのか?」
「あ、あぁ…、そうかも…」
 俺は恐る恐る自分の腹に手を遣るが、不自然に膨らんだ様子はない。びりびりに引き裂かれたはずの衣服も、元の綺麗な状態に戻っている。怪我をしたはずの手先や手足も、一切傷ついていない。
「……夢?」
 夢であって欲しいが、腰の痛みは男とヤりすぎた後の鈍痛とよく似ている。いや、それよりはるかに痛い。腰の痛みだけが、強烈に残っている。
「岩永、とりあえず病院に行こう」
「…いや、いい」
「痛むんだろう?」
 北折が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「いや、それより、早く帰ろう」
 一刻も早く、この場から離れたかった。
 俺は北折に手伝ってもらいつつ立ち上がり、おぼつかない足取りで、森から離れて行った。


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