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 膝上までのスカートから、すらりと伸びる色白な長い足。ブラウスの下から曲線を演出する、たわやかな胸と細いくびれ。吸い込まれるような瞳を縁取る、少しカールの付いた長い睫毛。嫌味なほどに整った顔立ち。
 文化祭で浮ついていたはずの廊下の空気が、その女子生徒が歩いたあとには、清廉な空気に変わっていく。
「ねぇ、あの人だれ?あんな綺麗な人、この学校にいたっけ?」
 男女問わず、すれ違う人誰もが振り向くほどの美貌の持ち主だ。
 だが、当の本人はちやほやする周りの声が耳に入らない程、余裕がなかった。
 その女子生徒は小走りで廊下を駆けて行き、階段の踊り場にある男子トイレに迷わず駆け込んだ。洗面台の縁を叩くように手を付き、鏡に映る自分を睨みつける。
「くそっ!何で俺が女装なんかしなくちゃいけねぇんだよ!」
 鏡に映る俺は、女子の制服であるブレザーを着てカツラを被り、化粧までしている。
 高校生活最後の文化祭で、俺のクラスは男女逆転喫茶と銘打ち、女子は男装、男子は女装をして接客するカフェをやっているのだ。俺は学校をサボりがちなために、俺の知らないうちに出し物が決まってしまっていた。当日の今日になって知った俺は猛反対したが、サボっていたやつが内容に口出しできるわけもなく、あれよあれよという間に、女子の制服を着せられてしまった。クラス全員がコスプレするという手の込みようは、さすがに呆れる。
「さっさと抜け出そう」
 文化祭なんてだるいし、やってられない。家で寝てればよかった。高校最後だから来いよと言う同じクラスの友人の口車に乗せられて、のこのこと登校してしまった今朝の自分を恨むしかない。
 鏡に映る自分の顔を見ていられなくて、顔を逸らす。女子たちは、つけましてないのに睫毛長ーい、とか何とか言ってたが、所詮俺は男だし、大勢の人にこんな顔を見られていたと思うと恥ずかしすぎて死にたくなる。
 羞恥に火照った顔を落ち着けるように、息を吐く。
 ふと先ほどから感じていた尿意を思い出した俺は、小便器に近づくが、自分の下半身を見て立ち止まる。
「スカート履いてたら、やりにくいな…」
 仕方なく洋式の個室の扉を開け、足を踏み入れた瞬間、背後でバンッと勢いよく扉が閉まった。驚いて後ろを振り向こうとすると、急に誰かに口を手で塞がれ、その勢いで背中を壁に叩き付けられた。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-