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 浅井啓太には、どうしても近づきたくない相手がいる。
 同じクラスの萩原要だ。
 萩原は運動も出来て、頭も良いうえに、モデルのような整ったルックスをしているため、学年を問わず、学校中の女子からモテモテだ。
 対して浅井は、頭脳やルックス、何をとっても普通の域から出ない、平凡すぎるほどに平凡な高校生だ。
 噂をすれば、前から数人の取り巻きの女子を引き連れた萩原が、前から廊下を歩いてくる。
 取り巻きの女子は、萩原の周りでキャーキャー騒いでいるが、当の萩原は関心がなさそうに澄ました顔をしている。そういうちょっと冷たそうなところがいいなんて、女子たちはよく騒いでいる。
 だが、浅井はそんな萩原をひがんでいるから、近づきたくないわけではない。浅井と萩原とでは、もともと住む世界が違う。持って生まれたスペックが違いすぎて、敵視しようとも思えない。同じクラスだが、仲が良いわけでもないし、そもそも興味もない。
 それなのに、萩原の存在を意識せざるを得ない。
 萩原をよけるように、廊下の端に移動する。すれ違いざまに、ふわっと、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
 取り巻きの女子たちの香りと混じり合っているはずなのに、萩原の香りだとはっきり識別できる。
 その香りは、何故かムスクのように、浅井の身体を痺れさせる。


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