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 朝の通勤ラッシュの電車で、人混みに揉まれながら、隆正は最近、ある事に頭を悩まされていた。
(まただ…)
 電車内の扉のすぐ近くに立つ隆正の尻に、誰かの手の甲が押し付けられた。
 隆正が不快に顔を歪めるのも知らずに、その骨ばった手は隆正の尻をゆるゆると揉み始める。
「……っ」
 隆正が痴漢されるようになったのは、2週間ほど前だった。男の隆正が痴漢されるなど、最初は何かの間違いかと思ったが、それからほぼ毎日のように、同じ男に痴漢されている。
 声を上げることもできず、唇を噛み締める隆正に、痴漢の動きが徐々に大胆になる。
 シャツの裾から手が入り込み、隆正の胸を手のひらで揉み、そこの突起を弄び始める。
 強気な隆正なら、痴漢されたら、すぐに痴漢を捕まえて警察に突き出しそうなものだが、今の隆正には、それが出来ない理由があった。
「…やめろ」
 背後の痴漢にだけ聞こえるほどの小声で訴えるが、男の手は聞こえなかったかのように、隆正の体をまさぐり続ける。
 隆正の尻には、明らかに硬くなった男の股間が押し付けられている。
 ベルトのバックルを緩められ、中に手を入れられる。
「……っ」
 股間をゆるゆると扱かれ、隆正の気持ちとは裏腹に、生物的に反応してしまう自分が憎い。
「俺の手、気持ちいい…?」
 耳元で囁かれる。
 首を横に振ると、扱く手の力が強くなった。
「やめろっ…!」
 苦痛に歪んだ隆正の顔が、車窓に映る。 公共の場で男に辱められているのに、ろくに抵抗することもできない自分が情けない。
 それもそのはず。車窓に反射する、隆正の背後に立つ男は、隆正の実の弟である秀司だからだ。


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-家庭内密事-
-彼の衝動-