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 室内に濡れた音と、父の荒い息遣いが響く。
六畳一間のボロアパートの畳に、俺の汗が滴り落ちて、小さな染みを作っていく。
部屋の隅には弟の周太郎(しゅうたろう)が、震えながら膝を抱えて座っている。
 お母さんはいない。周を産んですぐ、俺が一歳の時に死んだ。
いるのはお父さんだけ。俺を犯して悦ぶお父さんだけだ。
尻の感覚がない。でもきっと、お父さんの精液と俺の血でどろどろになっている。
背後から、啓太郎(けいたろう)、啓太郎、とお父さんが俺の名前を呼びながら、何度も何度も腰を振る。
 濡れた音が響く。
 ぐちゅ、ぐちゅ。
 ふと視界に、黒いランドセルが映った。
 あ、宿題やらなきゃ。明日、先生に怒られる。
 小さなキッチンは、ここ数日使われていない。
 今日の晩御飯はなんだろう。今日は、食べさせてくれるかな。
 ぐちゅ、ぐちゅ。
  むき出しの腕に、紫色の痣がある。でも今日は、これ以上殴られない気がする。お父さんの機嫌がいいから。パチンコに勝ったのかな。いつも機嫌のいいお父さんだといいのにな。
 だって、機嫌の悪いお父さんは、よく俺にお仕置きをする。裏の物置に閉じ込めるんだ。
 俺はそれが一番いやだ。狭くて暗いあそこで一人、夜を過ごすことが怖い。周と二人で閉じ込められた時は、一人じゃないからまだ耐えられる。でも一人で閉じ込められたら、耐えられない。真っ暗闇の中、この世に俺一人取り残されたように感じられて、無性に怖くなる。いくら喚いても、誰も助けに来てくれない。俺は一人が怖い。
 今日は、お仕置きされませんように。
 ぐちゅ、ぐちゅ。
 ぐちゅ、ぐちゅ。


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-彼の衝動-